【夏、真田一馬、高校一年生、バイト、始めます。大丈夫じゃないです…。】
 話は過去から現在へ。夏休み前の時期のこと。
 断固拒否、と言い切った真田だが、どうしたらいいのか悩む。悩みまくる。コンビニバイトなんて絶対嫌なのだが、結人の頼みを無下にはできない。できるものなら応えたい。真田は、二つ目の幼稚園の入園式を今でも覚えている。自分と母親は、門の前で足が竦んだ。心が竦んで、動けなくなった。前の幼稚園でのことに、囚われてしまっていたのだ。でも、若菜に名前を呼ばれ、体も心も、我に返った。母親が、若菜の出現に安心したのが分かって、自分もホッとした。自分と同じ小さな手なのに、真田の手を引く若菜の手が、とても頼もしく感じられたのを、今でも思い出す。そんな若菜と、小中は別だったが、高校は同じになって、本当に嬉しかった。
 それで、真田は、うじうじと悩む。若菜はそうなることを分かっていて、「悩みに悩んだ末に、断るか、断れずに引き受けるか、半々だな。どっちにしろ、この世の終わりみたいな顔して言ってくるだろうな。断るなら、無駄に罪悪感を抱いてるだろうから、適当に慰めよう。引き受けるなら、まあ、いい経験になるだろ」と思っている。
 真田は、母親に、「一馬、結人君の代わりに、コンビニでバイトするかもしれないって聞いたけど…」と話を振られる。
「えっ、いや、それはまだ、考え中なんだけど…」
「一馬がしたいなら、してみたらいいと思うし、お父さんも反対しないだろうけど、したくないなら、したくないって言えば、結人君も分かってくれるわよ」
「…そんなこと、分かってる」
 分かっているんだ。しないなら、しないでいい。そう言えば、「だよな〜」と若菜は笑って、それで終わり。それ以降、特に話題にもならないだろう。それは分かっているのだが、「やってみる」と言える自分であれたらいいのに、と思っているのだ。
 無理しちゃ駄目よ、と母親は言った。無理しちゃ駄目って、まだ何もしてないのに、引き受けるか断るかすら決められないのに、無理をするもしないもない。何も始まってない。
 真田は、小さい頃に色々習い事をしていた。ピアノやスイミング、英会話、書道に硬筆。どれも長くは続かなかった。習い事の内容が嫌なのではなく、先生や一緒の教室の子に馴染めなかった。母親はいつも、「無理しちゃ駄目よ。やめたいのならやめたらいい」と言っていた。真田は、そう言われてからも、しばらくは我慢して続けるものの、結局はやめることになる。やめたくてやめたから、その後はホッとしたけど、罪悪感や、自分はダメなんだ、という気持ちが残った。そういうことが続くと、もう、何かを始めること自体が怖くなる。何か始めても、またやめることになるかもしれない。こんなんでいいのか。そう悩んでいるのに、母親は、始めるのが怖いなら始めなくてもいい、とでも言うのか。そんなのって…。
 一週間後、真田が出した答えは。
「俺、やってみようと思う」
「そんな思い詰めた顔で言われてもなあ」
「引き受けるからには相当な覚悟でやる」
「重っ! 重いわお前。それ一日目で潰れるわ」
「俺もそんな予感がする…」
「まーまー、せっかくやるなら、一日ではやめんなよ。だいじょーぶだいじょーぶ! 多分!」
「多分って…。絶対大丈夫じゃない気がするけど、俺はやる…やるぞ…」(自分に言い聞かせている)
「あのー、やる気になってるとこ悪いけど、まずは面接からだから。採用されるとは思うけど、それを決めるのはオーナーだから」
 そんなわけで、真田はコンビニバイトを始める決断をした。
 面接は形ばかりのもので、真田は即採用。ちなみに、面接に現れた真田と接し、オーナーは少し意外に感じていた。若菜が友達を連れてくると言うから、まあまあチャラいのが来るのだと思っていた。そしたら、全然違うタイプの子だったから。第一印象は、無愛想に見えたので、接客向きじゃないと感じたが、履歴書が丁寧で、受け答えからは真面目さが伝わってきたので、大丈夫だろうと思っている。ただ、すごく緊張してるのが分かったので、慣れるまではしんどいだろうなと心配している。
 ところで、コンビニの立地は、割と駅から近く、周辺には高校や会社、マンションがあるので、平日の早朝と昼時は混みまくりだ。それで、真田のシフトについては、まずは週一のつもりだったのだが、もうすぐ夏休みだし、週一ではなかなか慣れないので、週三程度にすることに。平日二+土曜。バイト初日は土曜だった。若菜も一緒に入る。あとは、ベテランのパート(B)と、バイトの大学生(女性、C)だ。普段の土曜日は、そこまで混まないことが多いのだが、その日はたまたま近くでイベントがあったせいで、客が非常に多く、てんやわんや。真田にはずっと若菜が付いていたが、落ち着いて教える暇などない。
「アイスコーヒーSと、からあげくんの赤。あと、アイスブラスト(タバコの銘柄)。それと、これ」(振込用紙を何枚かレジに置く)「お支払いと商品は会計ご一緒でよろしいですか?」「うん」「お弁当は温めますか?」「これだけあっためて」「コーヒーにシロップとミルクはお入れしますか?」「シロップ1、ミルク2。あ、あと、コーヒーもう一つ。そっちはブラックで」「承知いたしました。もう一つもアイスコーヒーのSでよろしいですか? お持ち帰り用の袋にお入れしましょうか?」「うん。袋は、うーん、じゃあ入れといて」「承知いたしました。アイスブラストは何ミリでしょう?」「5」「はい、承知いたしました」「お支払い内容に間違いありませんでしたら、画面タッチお願いします」「ん」「恐れ入りますが、年齢確認のタッチもお願いいたします」「ん」「袋、お分けしますか?」「一緒でいい」
 何これ。何このやりとり。このようなやりとりが繰り返され、ゆうパックが持ち込まれたり、商品の在り処を聞かれたり、コピーをとってくれと言われたり、道を聞かれたり、レジ以外にも品出しや、揚げ物をしてるうちに、タバコが届いたり、パンが届いたり、外のゴミ箱を確認したら山盛りでゴミ出しに行ったりで、もうこれは何なのか。真田は、若菜に付いてレジに入っているだけだったが、呆然としていた。店内はエアコンがガンガンに効いていて涼しいのに、背中にびっしょり汗をかいていた。
 休憩中、「一馬、大丈夫か?」と、問う若菜に、真田は首を横に振る。
「結人、俺、もう帰りたい」(小声)
「ほー、お前、相当な覚悟はどうしたよ? でも、そんな奴もいたらしいぞ。初日に、途中でこっそり帰ったバイトもいたらしい。まじで帰るのか?」
「帰りたいけど帰らない。帰れない」
「よし、じゃあ、最後までやれ」
「…やります」
 地獄!!
 終わってから、真田はもうヘトヘトのボロボロだった。
「結人、やっぱり俺には絶対無理」
「そう思うだろ? 最初はそう思うんだよ。でもしばらくしたら、あれが当たり前になるから大丈夫。慣れたらむしろ、忙しいと快感だね。日中は基本三人体制なんだけど、急に一人が途中で帰ることになって、代わりもいなくて二人体制になって、一人が電話対応とかでいないときに、客がどっと来て、結構な行列できてるときなんか、レジやってて、ちょっとしびれるね。こんなときにゆうパックとか大量の支払い来たらどーする、とか思うと、ゾクゾクする」
「絶対嫌だ! 結人、変だよ!」
「でもまあ、飽きる。飽きるんだよ。正直だるい。時給安いし。割に合わねー」
「…飽きたからとか、時給安いからやめるんじゃないよな? 勉強するからやめるんだよな?」
「まあ、そういうことにはなってるな」
「何それ。夏期講習とか行くのか?」
「そうそう。なんか行くことになった。かわいい子いるかもー。出会いがあるかもー」
「アホだな」
「アホだよー。お前も行くか?」
「俺は、家で勉強するからいい」
「家庭教師とか付けてもらえば? お前んち金持ちだろ」
「金持ちではないけど。家庭教師なんて…、見知らぬ大学生とかと部屋で一対一なんて、考えただけで息が詰まる…」
「でも、塾の雰囲気も嫌なんだろ」
「別の学校の生徒もいるし、なんかやだ。学校終わった後、また学校って感じで、息が詰まる」
「お前すぐ息詰まるのな。そういや、俺と同じマンションに、D高(この辺で一番偏差値が高い高校)行ってる友達がいるんだよな。そいつ、知り合いの中三の家庭教師みたいなことやってて、俺らの倍以上の時給貰ってる。そいつに勉強教えてもらおうと思えば教えてもらえるはずなんだけど、どうもやる気にならん。いつか一馬に紹介してやるわ」
「それ、前も言ってたけど。何で紹介しようとするんだ? 紹介していらない」
「何で? 協調性なくて友達少ないっていう、お前との共通点があるのに」
「お前ほんと腹立つ。でも今はそんなことはどうでもいい。バイトだよバイト! 俺はどうしたらいいんだ…」
「言ってなかったかもしれんけど、来週からはもう俺いないから。なんとか頑張れよ」
「…聞いてない!」
「Bさんの言う通りにしてたら大丈夫。Cさんも慣れてるから大丈夫」

【出会い】
 重い気持ちでバイトから帰った真田を、母は笑顔で迎える。
「どうだった?」
「まあまあ大変だったよ…」
「でしょうね」
 夕飯は、真田の好物ばかりだった。父親はいつも帰りが遅いので、後から食べる。母はバイトのことを深くは聞かず、それが救いだった。「無理して続けることないのよ」なんて、今言われたら、もっと落ち込んでしまう。
 さて、初日はどうなることかと思ったが、真田は徐々に慣れていく。最初、真田は、ベテランのBのことが怖かった。すごくテキパキしていて何でも教えてくれるが、一度教えたことが次にできないと、きつく注意される。自分自身に厳しく、率先して動くが、他人にも多くを求める。オーナーに信頼されているのも頷けるし、立派だけど、こういう人は苦手だ…と真田は思っていた。一方、Cは、のんびり屋で優しい。真田が同じ失敗をしても、「大丈夫大丈夫」と言う。真田が、Bに度々注意されて落ち込んでいると、後でそっと、「Bさんは、言い方はきついときもあるけど、いい人だから。慣れるまでしんどいだろうけど、頑張って」と励ましてくれる。だけど、働いているうちに、二人に対する考えが少しずつ変化してきた。Bは、Cの言う通り、仕事に対しては厳しいけど、いい人だ。真田が自分から動けば、必ず褒めてくれる。真田の頑張りを、ちゃんと見つけて、認めてくれる。いつも誰よりたくさん動いて、全体を見渡して、先々のことを考えて仕事をしているBを、真田は心から尊敬した。Cは、優しくて穏やかではあるが、自分からはあまり動かない人だった。面倒なことやしんどいことは、なるべくしないで済ませたいように見える。もし一日二日で辞めていたら、「Bさんは仕事はできるけどきつい人。Cさんは優しい人」という印象のままだっただろう。すぐには辞めなくてよかった、と真田は思っていた。仕事自体も、最初は何が何だかさっぱりだったが、レジにも慣れたし、掃除も品出しも、さっさとできるようになってきた。まだまだ分からないことや不慣れなことはたくさんあるけど、最初とは全然違う。できなかったこと、できないと思っていたことができるようになってくるって、すごく嬉しいことなんだ、と感じていた。大体一ヶ月程で慣れてきた。慣れてきたと感じていたら、Bに「いい子が入ってよかったわ」と言われ、じーんとした。
 ある日のこと。なんとなく不安そうな様子で、六十代くらいの女性が店に入ってくる。レジにいた真田と目が合うと、救いを求める顔になった。何かと身構えたら、道を聞かれた。F病院まではどうやって行ったらいいでしょう、と。道を聞かれることはたまにあり、分かる場所なら説明するし、分からなければ、一緒に入ってる人の手が空いていたら助け船を出してくれる場合もあるし、お客さんが「分かんないならいいや」と諦めることもある。その女性は、分からないならいい、とはならなさそうだった。真田は、F病院の場所はなんとなく分かるが、なんとなくでしかなく、曖昧な説明しかできない。隣のレジで、Cは接客に追われており、すぐには頼れそうになく、Bは、ウォークイン冷蔵庫で飲料を補充中だ。困惑しつつ分かる範囲で説明するも、女性客はますます不安げな表情になり、「どの道をどう行けば…」と言う。
「F病院なら、この前の道を右に出て、最初の信号を右です。それから…、車ですか?」
 別の客が、女性に話しかけた。その客は、学生服姿で、真田と同じ年頃に見える。女性は、少しびっくりし、その後、その客にすがるような目を向けた。
「いいえ、私、歩きなんです」
「歩くなら、30分はかかると思いますが」
「ええ、ええ、それはいいんです、でも行き方が分からなくて」
 助かった、と真田は思った。すみません、と二人の客に対して言おうとしたときに、
「あのー、タバコ」
 さも不満げに、いつの間にかレジ前に立っていた男性客に声をかけられた。隣のレジには相変わらず何人か並んでいる。早くこっちでも対応しろということだ。Cが、ちらりとこちらを見て、レジやって、と目で訴えている。
 道を聞いてきた女性と、教えている学生は、レジから離れ、入り口付近に移動していた。学生は、鞄を開け、筆記用具を出している。何かと思えば、地図を描いているようだ。その様子を気にしつつ、言われたタバコを取りに行ったら、取り間違えてしまい、客は決定的に不機嫌になった。お待たせして申し訳ありませんでした、と、冷や汗をかきながら謝る。タバコ一個でこんな待たされた上に間違えられて冗談じゃねえ、という思いが痛いくらいに伝わってくる。ぴったりのお金を投げるように寄越して、舌打ちしてから客は出て行った。その後も、何人か客が並んでいたので対応し、そうこうしているうちに、道を聞いてきた女性も、教えていた学生もいなくなっていた。
「大丈夫だった?」
 と、聞いてきたCに、道を聞かれて説明できなくて困っていたら別のお客さんが教えてくれました、と伝える。
「そうみたいね。よかったね」
「地図描いてあげてました」
「地図ならあるんだけど」
「えっ、そうなんですか」
「でも、お客さんが多いときは、地図出して広げて、自分もよく分からない場所を一緒に探して、なんて暇ないよね。まあ、よかったじゃない。説明してくれる人がいて」
 でも、すみません、も、ありがとうございます、も言えなかった。制服からすると、この辺の高校なら、D高だ。別の地域の学生かもしれないし、D高生とは限らないけど、賢そうだったな。夏休みなのに制服ってことは、登校日だったんだろうか。
(迷いなく地図を描いてた)
 その日、帰宅してから、真田はF病院の場所を調べ、地図を描いてみる。これで、次に聞かれたら答えられる。
 F病院に行きたい女性は、地獄で仏に会ったような顔で、学生を見ていた。自分も、その女性のように、もしかしたら彼女以上に、助かった、と感じていた。
 奇しくも、この日は真田の誕生日。誕生日にバイトか。特に予定なければ関係ないか。むしろ予定ないならバイトでもしてた方が。母親に、何もないなら一緒に買い物や外食にでも行こうか、と誘われたのだが、シフトが入っていて変えられない、と断っていたのだった。
 ちなみに、真田と若菜の通ってるE高は、D高に比べたらかなりランクが落ちるが、勉強できなくても行けるというような高校ではない。まあ普通くらいのとこ。さらにちなみに、真田父はD高出。
 それはともかく。
 もしも、次に会えたら、謝って、お礼を言おう、
 と思う真田だった。

【二度め】
 あの人(道教えてあげたD高生。実際D高かどうかは分からないが、真田はほぼ確信している)にまた会えないかな、とか思ってるうちに、夏休みももう終わり。真田は、高一の8/31をバイト先で迎えている。宿題は計画的に終わらせ、夏休み明けテスト対策も一応している。毎年夏休みには家族で旅行に行くことになっていて、今年も行ったが、既に記憶がおぼろげだ。家族の恒例行事になっているし、両親が乗り気なので、自分も楽しそうにしているが、そんなに楽しいとは感じていなかった。でもこの夏は、割といい夏だった。初めてのバイト、無理だと思ったけど、そんなことはなかった。それが、こんなに嬉しいなんて。夏休みが終わる。9月以降はシフトが変わる。まだまだ暑いけど、夏は終わりに近付いてる。そんな真田の思いなどに関係なく、店はいつも通り昼時のピークを迎えようとしていた。真田は、レジをしながら、「ちょっとだけなら結人の気持ちが分かるかも」と思った。忙しいと快感、というの。早くしなければならない。間違えてはならない。そして自分は、なんとかそれをやれるだろうという見込み。
(あっ、あの人…!)
 隣のレジに、あの人がいるのが見えた。この前、道を教えてくれた学生だ。こっちのレジに来てくれたらよかったのに、という真田の思いも虚しく、学生は会計を終えそうだ。隣のレジを気にしているせいで、手元が疎かになってしまった真田は、釣り銭を渡そうとした際に客とタイミングが合わず、十円玉が客の手からすり抜けてしまった。硬貨は、台の上を転がり、床に落ちて、出入り口方向に向かって転がり続ける。
「あっ…!」
 真田は慌てて、レジから出ようとする。客も硬貨を追いかけた。十円玉は、隣のレジで会計を終え、店を出ようとしていたあの人の足元へ。彼は、屈んで硬貨を拾い、すぐ近くまで来ていた客に渡した。「あ、どうも」、と客が受け取る。「申し訳ありません!」という、真田の謝罪が聞こえたかどうかも分からぬまま、真田が対応していた客も、あの人も、何事もなかったようにすっと店を出て行った。ああ、もう…、なんて落ち込む間もなく、次の客に対応する。
 十円玉が、真田の代わりに、あの人を追いかけてった? でも、引き止められたのは一瞬だけ。
 もうすぐバイトが上がる時間。客は少なく、店内は静かだった。Cは、のんびりしたペースで品出ししている。
 Bが、発注しながら、真田に話しかけてきた。
「9月からは、シフト変わるね。真田くん、土曜と、平日入れる日は夕方からでしょう? 私は、平日は夕方までだし、土曜はこれからはあんまり入らないつもりなの。どうしても人がいないときは入るけどね。これからも、頑張ってね。でも、無理はしないように。新しい人も入るみたいだから、シフトが一緒になったら、色々教えてあげてね」
 色々教えてあげてと言われても、真田はまだ入って一ヶ月ちょっと。まだまだBに色々教えてほしいことがあるのに。Cから少し聞いた話では、Bの親の調子が悪いらしく、今後はなるべくシフトを減らしていくつもりらしい。
(Bさんがあんまり出られなくなったら、この店はどうなるんだろう。自分は、誰を見本にすればいいんだろう)
 真田の不安が伝わったのか、
「真田くんなら大丈夫」
 と、Bが微笑んだ。
(なんで…)
 たった一ヶ月ちょっとの間、といっても毎日ではなく、週三で一緒にシフトに入っていた人が、自分を認め、励ましてくれる。それが社交辞令でも、尊敬しているBから言われて、真田は嬉しかった。でも、なんとなくしんみりしてしまう。
(Bさんのお父さんかお母さんか分からないけど、早く元気になるといいな…)
 真田は、若菜に感謝しようと思った。もし若菜に頼まれなかったら、コンビニのバイトなんて絶対しなかった。しんどいこともあるけど、始めてよかった。
(あの人…)
 そう、あの人。道を教えてくれて、お釣りを拾ってくれたあの人。またお礼を言えなかった。
 でも、また会える気がしていた。次は、慌てたりミスしたりしてる場面じゃなく、普通にレジで相対したい。



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