うさぎって寂しいと死んじゃうらしいのよ(※『ひとつ屋根の下』で小雪から学びました)
でも僕はうさぎでなくて人なので寂しいくらいじゃ死ねんわけです
しかしながら僕とて一人じゃ寂しいし、ないがしろにされると悔しいし、悲しいし
アンダー14、アンダー・ザ・サン
まァそもそも、ね?奴のあの台詞が間違いだったんだ。アウトとセーフの間くらい? や、アウト寄りかな。アウトだな。うん。 それは一馬んちで中間テストの勉強やってたときのこと。勉強し始めてからまだ三十分も経ってないというのに、俺は飽きちゃって(飽きるほどやってないけど)、一馬が英単語を綴っている様を見ながら、「お前の字、hとnの区別つかねーな」なんてちょっかい出して邪魔したりして、いつもならそういうときは英士が俺に注意する役割なんだけど、今日は英士は都合が合わなくて不在。不運にも一馬は俺にさんざん勉強を邪魔されてたわけである。どうせ諌めても無駄だ、無視するのが賢明だと判断したのか、一馬は俺が横から口出ししても反応することなく淡々とシャーペンを走らせていた。へー、随分大人になったもんだ。ちぇ。なんだか自分がバカに思えてきた。ああだる、勉強なんかやってられるか、と、テーブルに突っ伏す。一馬がアルファベットを綴る乾いた音が聞こえてた。 しばらくして、コトリとテーブルにシャーペンを置く音が聞こえて、顔を上げた。 一息ついた一馬がふと発した言葉は、あまりにも予想外のものだった。 「もしも、もしもの話だけど、俺が女の子だったとしたら、結人みたいなのが彼氏だったら楽しいだろうなァ、とか」 いきなり何!? うわーー引いちゃった。波のように引いたよ。でもそれを顔に出すのも何ですので、 「そりゃどーも」 と、口先だけの礼を言ってから、 「でもお前英士が好きなんだろ?」 「うん、だから、もしも女の子だったらって前置きしたじゃん」 「でもお前男だろ?」 「うん、だから、もしもの話だってば」 「気持ちわりーこと言うな。想像しちゃうだろ、気持ちわる」 「なんだよっ、その言い方は!」 気持ち悪い。こいつほんとは俺のこと好きなんじゃないのか? 気持ち悪い。こいつ英士とどうこうしてるくせに。気持ち悪い。こいつこんなこと言って人の気引こうとしてるのか? 気持ちわる。 さっきの一馬、気持ち悪かった。 気持ち悪がってる自分も気持ち悪いけど。 友達なのに。そんな、友達なのに、なんでそんなことを。女の子だったらとかそんなこと、そんなもしもの話は聞きたくない。なんで一馬はこんなこと言うんだろ。なんで俺はこんなに引っ掛かりを感じるんだろ。軽く流せるはずなのに。ていうかここは軽く流すべきとこだったのに。なんでこんなに。気持ち悪い。 「もし一馬が女の子だったとしても絶対お断りだな。好みじゃねーもん。彼女にしたくねー。断固拒否、徹底・拒否」 「ひでー! そこまで言う!? お前、それは友達として…、んっ」 一馬の胸倉、掴んで、キス、ガチ、歯と歯がぶつかる、わざとぶつけた、イテ。 唇を離すとき、生温い余韻みたいなのが後を引いて、そういうのがちょっとだけいやらしい気がした。 一馬、口押さえて唖然。すげー間抜け面。 「へんなかお」 それだけ言って一馬の部屋を出た。 変な顔だった。英士は一馬のこと可愛い可愛いというけど、あれのどこが可愛いんだろう、さっぱり分からん。あー、あと、いつだったか一馬の奴が英士のことキレイだとか言ってたな。キレイか〜? 薄過ぎるだろ、アレは。目細いし。一重だし。いいけどさ。人の好みはそれぞれですから。お互いに顔が好みで良かったね。 …いかん、いかんぞ、何かが腑に落ちない。どこかしらむかつく。何か、割り切れない何かがある。嗚呼これだから三人組ってやつは。三人のうちの二人が親密になっちゃうと一人が可哀相なことに。いや別に俺はいいんだけど。いいよ、別に。英士と一馬似合ってるし?(大笑い)俺、彼女もいますし、他にも友達いっぱいいますし?(奴等と違って)いいよ、別に、全然いいよ? …いかん、いかんぞ。どこか割り切れないのだ! そもそも俺は二人の仲を取り持ってやるようなキャラじゃないんだ。愛のキューピッドて。アホかっ。そこんとこどーなの、ちょっと。や、まあね、別に俺が二人の仲を取り持たなくても奴等はとっくにアホのように仲良しなんですけどね。俺は指くわえて英士&一馬のホモカップルを見つめてりゃいいわけで。いや、わざわざ指くわえなくてもいいんだけど。 というわけで何だか微妙に色々と割り切れないのだった。でもだからといって、さっきの俺の行動はまずかったな。うん、あれはまずいだろ、どう考えても。 とりあえず袖口で唇をしっかり拭う。家に帰ったら颯爽と嗽と歯磨きせにゃとか思った。やだやだ男とキスしちゃったよ。しかも一馬と。うわ寒。寒過ぎる。や、英士との方が寒いか。あ、駄目、想像しただけでさぶイボが。ていうか俺は駄目だ、やっぱ。二人に取り残されるのはヤだけど、奴らの恋だの愛だのそういうアレに加わることは出来っこない寒い怖い。改めて思い知ったよ。というわけで英士と一馬で勝手にニャンニャンしてるがいい。いやしかし取り残されるのは何かが腑に落ちないというかむかつくような気も。そうだ、むかつくぞ、お前ら、もっと俺を重く扱え、敬え、敬え〜。あ、もう、何が、何だか、分からなくなってきた。 きっと一馬のあの台詞に深い意味は無かったんだろう。何でもない台詞だったのだ。何でもないことだからこそ軽く口にしたんだろう。だから笑って受け流すなり気の利いた冗談で返すなり軽く答えるべきだったのだ。なのに過剰に反応してしまった。何が『気持ち悪い』だ。気持ち悪いのは自分の方じゃないのか? 真に受けちゃって。アホだ。駄目だ。終わってる。 その日の夜、英士から電話がかかってきた。あ、もしかしたら今日のこと一馬から聞いたのかな。それで怒りの電話か? と思ったけどどうやらそうじゃないみたい。英士の様子いつも通りだし。それに一馬は言わない(じゃなくて言えない)よなあ英士には。特別用事があってかけてきたわけじゃないらしいけど。今日は俺と一馬で二人きりだったからそれを気にして、今日のことを窺うために電話してきたのかな、なんて邪推してしまう自分が嫌になる。でも万一探りを入れるための電話だったとしても文句は言えない。だって実際一馬に良からぬことしちゃったわけだし。…とかそういうこと考えてたらどうにも心が荒んできちゃって。ついついとっても不穏なことを口走ってしまったわけで。 「もしかしたら好き合ってたのは俺と一馬かもしれなかったのに」 ほんとはそんな『もしかして』なんか無い。あり得ない。でも言ってみたくなったのは、単に英士に対するからかいなのか、それともアレか? 寂しいのかな俺。 「馬鹿なこと言うなよ」 途端に硬く冷たくなる英士の口調。 嫌だね、英士は、一馬のことになると必死になるんだから。 「だからもしかしたらの話だってば。何かの偶然によってはそういうことになってたかもしれないってそういう話。一馬が英士を好きなのはきっと英士が一馬のこと好きだからだよ。あいつ押しに弱いとこあるしな。もし、そう、もしも、俺が一馬のことそういう意味で好きだったとして、それで押したら、一馬は俺のこと好きになってたかも」 「勝手なこと言うな」 声色から充分過ぎるほどに相手の怒りが伝わってくる。怖い、ほんとに怖いよこの人。 「冗談だよ冗談。何まじになってんの」 あはは、と笑った。 少し乾いた笑いになってしまったのは、自分が言っちゃったこと、後悔してるから。言わなきゃ良かったこんなこと。 「悪い冗談だね。気分が悪い」 「わはは、怒んなよ、も〜、気ぃ短いなァ」 「だって結人が変なこと言うから」 「分かったって。もうこんなこと言わないよ」 二度と言わない。こんな心にも無いこと。 「お前まさかほんとに一馬のこと、」 「うわヤメテ。それはない、絶対ないから。一馬にチューしたとき素で気持ち悪かったよ。やっぱ駄目だな、男相手じゃ…、あっ」 しまった、言っちゃった。 『一馬にチュー』という言葉で完全に英士の時は止まってしまったようだ。殺されたらどうしよう! もうとにかく必死で言い訳して何回も謝ってみた。 英士は思いきり大きなため息を吐いて、 「あんまり一馬をからかって遊ぶなよ」 と言った。 ああしばらくは恨まれ続けるんだろうな。そう思うと気が重い。自身の過失が悔やまれるばかりだ。 たとえ世界に、一馬と俺、二人しかいなくなっちゃったとしても、二人がどうこうなることはないだろう。それは英士と俺とでも同じこと。そこんとこ、はっきりさせておかないと。 ごめんネえーし、かずまにチューしちゃったのは、ちょっとしたいじわるだよ。ちょっとだけさびしいかもとかおもって、ふたりがちょっとだけにくらしくなっちゃったんだ。ほんのちょっとだけだよ。かわいいもんだろ? ゆるしてね。 可愛らしく平仮名で言ってみたけど駄目かなあ。駄目だろうなあ。 受話器を置いたとき、ひどい疲れを感じてため息が出た、次の瞬間携帯が鳴って、思わずビクッとしてしまう。 あああ倉木麻衣がスタンダップが俺を呼んでいる。 めんどくさいから出たくねーな、なんて思いつつディスプレイに表示されたその名前を見てしまったら出ないわけにいかない。 彼女からだった。 「俺、寂しいのかも」 そんなニュアンスのことを彼女(山田華子)に零したら、 「結人には私がいるじゃない」 と、お決まりの寒い台詞を返してくれた。 ウワ頭わる、と思ったけど嬉しかった。うん、嬉しかったんだ。やっぱ持つべきものは彼女だよ。友達じゃなくてさ、彼女なんだ。とか俄かに思ったりした自分はかなり現金だ。 それから中間テストが始まって、クラブの練習以外で一馬や英士と会うことはなかった。どことなく気まずさを感じずにはいられない。俺のどこかぎこちない態度が二人を不安にさせ、結局三人の雰囲気を気まずいものにさせる。一人で勝手につまらないことで三人の間に波風を立てていると思う。 触らぬ神に崇り無しとでも経験上わきまえちゃってるのかな、こいつらは。こっちが避けると、向こうもちょっかい出すのを控え気味になる。君ら、そういうとこ結構大人だね。もうちょっと昔はさ、こっちがうっとうしいからどっか行け! みたいにあからさまな態度をとったって干渉してくることもあったのにね。それとも何かな、もう俺はいいのかな、二人で仲良くやってるから、俺はもういらないのか。 そこまで考えて馬鹿馬鹿しくなって笑えた。なんて子供じみた考えだろう。 そうそう、触らぬ神に崇りは無いよ。どうせ今ちょっかい出されたって冷たく避けてしまうだろう。(でもほんとは崇り覚悟で触ろうとしてほしいんだよ、俺にもそういうときがあるんだ、今がそういうときなんだ) 家のドアを開けて、いかにも疲れきった声で「ただいま」を言った。 「あらお帰り」 台所に立つ母親は、振り返らずに答えてから、 「冷蔵庫の中、ヨーグルト入ってるからね、チチヤスの。で、冷凍庫にはハーゲンダッツあるよ。ヨーグルトは今食べてもいいけどアイスは食後ね」 やっぱり振り返らないままだった。 ああ、最近元気ないの気付かれてたんだな。母なりに気遣ってくれてるわけだ。そう思うと嬉しくなって、でもどこか照れ臭い。ありがとう、なんて言えないから、うん、と短く答えただけで、冷蔵庫を開けてヨーグルトを取り出した。 リビングで教科書を捲りながらテストに出そうなとこをチェックしてたら、姉ちゃんがちょっかいを出してきた。 「ねーなんか結人ちょっと元気なくない〜?」 母親と違ってえらい率直だ。 「そんなことねーよ」と軽く流すと、「そうかなあ」とさらに追及してこようとするものだから、 「なー、なんか姉ちゃんちょっと肥えた〜?」 「! そんなことないよ! 肥えたとか言わないでよ!」 「だって顔丸くなったよ、なんか最近」 「殺す!」 も〜、テスト勉強の邪魔すんな〜。(まあ勉強というほどのこともしてないけども) 夕飯中に、またもや姉ちゃんが話を蒸し返して、俺は呆れてしまった。でも昔からそうだった。姉ちゃんは暇さえあれば俺にちょっかいを出してくるんだ。姉ちゃんも中間テストの時期なはずだから暇ではないと思うんだけど。 「最近ちょっと結人元気なくない?」 姉ちゃんの言葉にお父さんが味噌汁を啜るのを止めて頷いた。 「そうだな、最近の結人には、こう、覇気が感じられん」 「や、元気モリモリですよ」 「嘘〜」 ほんとにしつこいな! 「嘘じゃない」 「なんかアンタがおとなしいと気味が悪くて…」 「よし、結人に父さんのエビフライ一個やるから元気出せ」 「……あのなあ」 お母さんは俺達の会話を笑いながら聞いてるだけだった。 夕飯を終えて、そろそろ自分の部屋で真面目に勉強すべきなのかなーと思いつつもリビングでノンキにテレビを見てたら兄ちゃんが帰って来た。 「ただいまー」「お帰り。ご飯は?」「食べてきた」 兄ちゃんとお母さんのやり取りが微かに聞こえる。 「よー結人」 しばらくしてリビングに訪れた兄ちゃんの手にはハーゲンダッツ(抹茶)とスプーンが握られていて、 「あっ、それ、俺のなのに!」 と思わず抗議した。 「なーんだよ、意地汚いこと言ってんなよ」 「だって〜」 「まだ三つも残ってるよ」 「味は?」 「ピーチとヨーグルトと…、あと何だっけ、チョコチップかクッキー&クリーム」 「ああ抹茶が良かった…」 「…いやらしいなァお前」 そのまま兄ちゃんととりとめなく話してた。兄ちゃんから大学の話を聞くのは好きだ。面白い教授がいて、講義でどんなことをやったとかそういうのを聞くと、中学とは違って大学ってものすごく楽しいとこみたく思えた。まあ、兄ちゃんも話を面白くするために適当に脚色して話してるかもしれないんだけどさ。 「三人組ってさ、むずかしいんだよね」 兄ちゃんの話が一区切りついたとこで、独り言みたくそんなことを呟いてみると、兄ちゃんは頷いて、馬鹿馬鹿しいけどもっともな例を持ち出した。 「おお、そーだな、だって遠足のバスの座席決めるときとかさ、二人座りだからどうしてもなあ」 「補助席には座りたくないしさあ」 「なんだよ、お前もしかして、余っちゃった一人なわけ? 座るとこ無いわけ? 担任の横に座ることになったりするわけ?」 「うわ〜嫌過ぎるな、それは」 「不憫な子だ!」 兄ちゃんが俺の両肩をガシッと掴んだ。 「うっわ」 「よっしゃ! 俺も遠足に行ってやる! そして俺が結人の横に座ってやる!」 「わははは!」 「そしたら寂しくないだろ?」 「寂しくはなくなるけど恥ずかしいよ」 「あ、そっか」 鬱陶しいなあ、もう。家族って鬱陶しいよ。 一馬、英士、おお親愛なる我が友よ、もしも君たちが二人して僕から離れていったとしても、僕は平気だ。僕にはちゃんと他に居場所がある。愛されているんだ。生きていける。 けれども寂しくなるだろう。つまらなくなるだろう。君たちがいなければ生きる歓びは半減することだろう。そう、きっと。 ああ散々だったな、なんて沈みがちになりながらもとりあえずテストは明けたし、すっきりした。 ふと英士と一馬のことを思った。英士はきっとそつなくテストをこなしただろう。特別秀才というわけじゃないけど、奴はこういうとことても要領がいいんだ。『どのへんがテストに出るかなんて大体分かるからそこをちょっと勉強すれば中間・期末試験なんて軽いよ』とか言ってた(なんてむかつく奴だろう)。一馬は英士のように要領の良い勉強の仕方を心得てはいないけど、先生がやれと言ったところはやるし、押さえておくべきところはテスト前までには押さえるし、嫌だ嫌だと言いながらも結局は人並みにテスト勉強をこなすから、いつもそれなりの結果を得ている。 そんなことをぼんやりと考えていた、午後五時。 あ。メールの着信音。 英士からだ。 なんてタイミング。 『ちょっと今から出て来れる?一馬もいる。一緒に夕飯どうかな、と思って』 今から出かけるのかー、めんどくせ。 世の中には面倒なことが多いね。自分の気持ちすら持て余す。テストとか、人間関係とかさ、みんな面倒臭くて鬱陶しいよ。家族の顔を思い浮かべた。彼女の顔を思い浮かべた。友達の顔を思い浮かべた。そうだ、みんな煩わしい。でも、その煩わしさがとても、かけがえないんだ、とても、本当に。急に胸が痛くなってきた。胸の奥からぐっと込み上げて今にも口から飛び出しそうな情動を奥歯を噛み締めて堰き止める、さらに唾を飲み込んで体の下の方に追いやろうと努める。行き場を無くした思いが胸の中をぐるぐると回って熱を帯びてく。 涙が出るかと思った。 『今どこ?すぐ行く』 俺って、なんて大事にされてるんだろ。なんて大事に、ほんとに、ものすごく大事にされてる。そう、いつも、ちょっとした出来事で気付かされる。それはなんて尊い出来事なんだろう。我が身を取り巻く環境のなんと尊いことか! 慣れきってしまって感謝の心を忘れていたよ。愛溢れる環境。いつだってそこに身を置いてる。そんで今まで生きてきた。ぼくの肉体をぼくの精神を育んできたのはこの愛だ。愛なのだ。ぼくの血管には愛が流れている。指の先まで愛が。ぼくの血が赤いのはその愛ゆえだ。ぼくを動かすのはその愛だ。感謝の心を忘れてはいけない。ぼくはぼくを大事にしよう。ぼくは家族を大事にしよう。ぼくは彼女を大事にしよう。ぼくは友達を大事にしよう。ぼくは地球を大事にしよう。(いきなりスケールでかくなってやんの) 「結人、一馬と俺が仲良しだから寂しいんだろ?」 ギャー。 「何を言うか貴様」 「えっ、結人、そうなの??」 「そんなわけねーだろ。アホかお前ら」 「駄目だよ、誤魔化しても。こないだ偶然山田さんとコンビニで会ってね、彼女から聞いたんだから。『結人とも仲良くしてあげてね』って言われちゃったよ」 「……あの女……」 「自分の彼女のこと『あの女』とか言っちゃ駄目」 あの女、ほんとに頭悪いな。彼女の顔を思い出してむかついて呆れてその後苦笑が零れた。家に帰ったら速攻電話して文句言ってやろ。あ、そうそうこの日曜に結局どの映画観るかも決めないと。(俺と彼女の映画の趣味はとんでもなく食い違ってるからどの映画を観るかってことになるといつも酷く揉めるのだった) 「そっか、結人、寂しかったんだ…。なんか可哀相」 「そう、結人寂しかったんだって。面白いよね」 「一馬に可哀相とか思われたくねー。英士に面白がられたくねー。あーむかつくお前ら死ね」 「俺、結人のこと好きだよ? 結人とも仲良いよ?」 「ハイハイそりゃどーもありがたいこった」(棒読み) 「えっ、一馬、俺のことは? 俺は? ねえ、一馬」 「ああうんまあ英士のことも結構好きかな」 「『結構』って何!?」 「あーもーいちいち鬱陶しいよ、お前らは」 ほんと鬱陶しいよ、お前ら。うるさいよ。むかつくよ。愛してるよ。な〜んて! (あ、今の相当アホぽい)(うん、まじアホぽい)(やべー、英士と一馬のアホが伝染ったに違いねえ。やべー、ちょっと距離置こ) 「あっ、何逃げてんだよっ!」 一馬が俺の右腕を掴む。 「あーあ照れちゃって。結人はそういうキャラじゃないでしょ。似合わないよ?」 英士が俺の左腕を掴む。 あー鬱陶しい! でもそうだ、これこそが愛なのだ。 …ほんとかよ。 僕は補助席には座らない。 一番後ろの席に我が物顔で三人座ればいい。 ほら、バスの、一番後ろんとこ、あそこって広くなかったっけ? ☆★おしまい★☆ |
May.25,2001
・・・おまけ郭真・・・
「…そういや、あんまり嫌な感じじゃなかったな」
「何が?」
「え? いや、結人とのキスが」
「……」
「あ、いや、別に変な意味じゃなくて」
「俺にもキスさせてよ」
「や、別に俺は結人に好きでさせたわけじゃあ」
「俺にもさせてよ」(←二回も言ってるし)
「……」
「俺にも、」(←まだ言ってる)
「はいはい、英士の誕生日になったらな」
「…来年だね…」
「うん、来年」
「鬼だ……」
「あはははは」
「でもそういういけずなところも好きだよ」
「ありがとう。俺も英士のオカシイとこちょっと好きかも」
「『オカシイ』? 『ちょっと』? 『かも』? 多くの疑問・疑惑を感じずにはいられない台詞だね、一馬…」
「うん」
「ほんと鬼だね。真の鬼って感じだ」
(一馬って意地悪だなあ。ああでももっと意地悪されたいような気もする…)
…変態!
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