10月初旬。凄絶な夏も、厳しい残暑も、その余韻もすっかり死んで、秋の空気は残酷なくらいさらさらと涼しい。過ごしやすい時期の訪れを歓迎しながらも、過ぎ去った夏の、蒸した大気の息苦しさを、小さな頃に飼っていた小鳥を思い返すような愛しさと痛みをもって、懐かしく思うのです。季節がめぐり、秋が終われば冬になり、冷たい殻を破って春が生まれ、春が往けばまた次の夏が来るではないか、と言われるかもしれません。でも、当然、次の夏は、新しい夏で、見知らぬ夏です。過ぎた夏は二度と来ません。

「俺、今日練習休むから」

　家を出る間際、結人から電話がありました。

「ばーちゃんが死んだんだ」

60歳になっても70歳になっても忘れないよ


ビューティフルサマー

何度も立ち止まり振り返り指でなぞる

美しくて哀しくて、大切で、胸が苦しくなるんだよ


そのような夏の思い出を持っている者は幸福だ