【けっこんしようそしてえいえんのあいをちかおう】
 そんなん無理無理・ぜっ・たい・無・理! 理由〜? それはネ、




カルシウム不足! ラブ不足!


 近ごろカルシウム足りてますかー?
『うーん、足りてるぽい。背ぇ伸ばすために毎日最低でも一パックは牛乳空けてますんでー』
 近ごろラブ足りてますかー?
『うーん、それはノーコメントですー』

そんなわけで、はじまりはじまり〜(いきなり)

「あ〜、イライラする〜〜!」
 って、結人が独りごちた。イライラしてんのは傍目にもすぐ分かる。結人の周りの空気、すげえピリピリしてる。
「結人、牛乳飲む?」
 カルシウム不足だとイライラするんだよな? イライラにはカルシウムで合ってるよな? 牛乳ってカルシウム多いよな?
 俺の言葉で、一瞬結人がピタリと止まったのが分かった。あ、なんかやばい雰囲気? あれ? 俺、なんかまずいこと言った?
「殺すぞ、てめ」
 結人は、低い声でそう一言。
 ななな何それ! なんで! なんで殺すぞとか言われなきゃなんねんだよ! 俺は厚意でだなあー…って、でも、なんも言い返せないしー…。だ、だって、結人、顔マジ怖い。怒ってる怒ってるすっげ怒ってる。こ、こわ。おいおい本気で怖いよ、ちょっと!
「触らぬ神に祟り無し、ってね」
 すました様子で英士がボソリと言った。そっか。触らなきゃいいのか。そーか。あ、でも『触らなくたって神は祟っちゃう』とかいうフレーズ、どっかでなかったっけ?(ミスチルの歌だっけ?? 違ったっけ?)触んなくとも結人は祟るよ。今までの経験上そう言える。英士だって分かってるくせに。あーでも、とばっちりを受けんのは主に俺だからなあ。英士って何でも上手くかわしちゃうんだもん。いいなあ英士は。器用でさ。俺は駄目だな。ほんと。色々駄目。
 とにかく最近の結人は機嫌が悪いったらない。結人の機嫌の悪さに巻き込まれて、どうにもどうしようもない俺。どうしよう。

 三人で会う約束だったある日。英士の都合が悪くなって、俺と結人だけで会うことに。うわー。居たたまれない思いをすること確実。うわー。
「牛乳飲み過ぎ」
 …きた。きたよ。牛乳飲んでる俺に、結人が言った。結人の口調、妙に刺々しい。人を見下してる感じ。何。なぜ牛乳飲んでるだけで、そんな冷徹な口調でとがめられなけりゃならねんだ。なんだ。俺が牛乳飲んだら、結人のお腹が下るとか? そんなわけねーだろ。くそ。
「だって大きくなりたいし」
「なんだよ、それ。俺に対する嫌味かよ」
「えっ。そんなつもりじゃ…」
「ケッ! てめえはリンゴジュースばっか飲んでりゃいーんだよバーカ」
 …ひでー! その言い様は何!? お前って何様!?(『結人様』なんだろうけど)ケッて! バーカって! 言い返す気力も失せるぜ。(本当のところは、さらに酷いこと言われるのが空恐ろしくて言い返せないだけだったりして)
 さすがに露骨に憮然となった俺に、結人は急に態度を変えて可笑しそうに笑いながら、
「あっ、怒った?」
 さっきまで怖い顔してたくせに、いきなり陽気な顔になっちゃって。なんだよ、こいつは。もー。
「別に怒ってない」
 とか答えつつ、自分の表情がますます固くなってくるのが分かる。だって、結人はずるい。わがまま。意地悪。調子良過ぎ。俺って結人に振り回されっぱなしじゃん。こんなんってアリ? 俺ってかなり情けない。結人ってかなり自己中心的。もう付き合いきれねー。神経が磨り減る。神経が切れる。嫌だ嫌だ。結人なんか大嫌い。
「嘘つけ。怒ってるじゃん。眉間にシワが寄ってますよ〜!」
 結人は笑いながら、俺の眉間に人差し指を当てた。
「触るな」
 結人の手を振り払おうと伸ばした俺の右手はあっさり掴まれて。
 うわ。眉間にキスされた。うわー。さすが結人様。すごい早業!
 へっへ〜、と結人が笑った。その笑顔。『どうだ、まいっただろ』と言わんばかり。はい。まいりました。
 前言撤回。(※前言=『結人なんか大嫌い』) 好きだよ、畜生、大好きかも。
 俺は舌打ちしながら眉間を拭う。そんな様子を見て、結人はさらに笑った。
「しゃーねえなー。お前って仕方ねえヤツー」
 って結人が言った。
 えっ!? それは俺が言うべき台詞だろ? 仕方ない奴? って俺が? マジで? お前じゃなくて? 俺? 俺なのか? 仕方ない奴はお前だろうが。どう考えても。(そんなこと言えねーけど)
 笑ってた結人の顔が、ふと真剣になる。
「一馬。お前は何気に可愛いよ。少なくとも英士の彼女よりは」
「…はあ?」
「英士の彼女がお前だったら許せたのかもな」
「…結人、何言ってんだよ…」
「嘘。余計許せない」
「おい、結人、」
「一馬、結婚しよう」
「は?」
「そして永遠の愛を誓おう」
「……なんなんだよ、お前は……、ていうか、お前、どこ見てもの言ってんだよ…」
 俺は少しだけ俯いてしまう。結人はさっき(『可愛いよ』とかぬかしたあたり)から、窓の外を見てばかり。訳分かんない。でも、一個だけ確実に分かったことがある。結人の最近の不機嫌の理由。
 英士のせいだったんだ。
 そっか。そーなんだ。最近、英士が俺らより彼女との約束を優先させることが多くなったから。だから、結人、機嫌悪いんだ。ふうん、なーんだ。
 案外、結人ってくだんねー奴。全然子供っぽいじゃん。(こんなこと言ったら即・殺される。秒殺ものだ)
「結婚できねーよ」
「なんで」
「だって、結人、カルシウム足りねえじゃん」
「はあ?」
「俺、骨弱い人と結婚すんのはヤだ」
「一馬…骨太が好きなんだ…」
「骨細よりは」
「ていうか、俺、カルシウム全然足りてると思うんだけど。ヨーグルトのおかげで」
「そっかな〜」
「そーだろ」
「俺、腐った牛乳(=ヨーグルト)なんかで充分なカルシウムが補給できるとはとても思えないんだけど」
「あ、てめ、ヨーグルト馬鹿にしてんなよ」
「ちゃんと牛乳も飲めよ」
「はいはい分かりましたよ。飲みますよ」
「でもたとえ結人が骨太になっても駄目だけどな」
「なんで」
「だって、結人、愛足りねえじゃん」
 だって、結人が好きなのは英士だろ。俺がそんなこと知らねえとでも思ってんのか。だから結婚がどうの愛がどうのとそんな冗談を言うのか。ちくしょう、俺をバカにしやがって。くそ。絶対、俺は結人に舐められてる。そんなこと前から気付いてたけど。俺が気付いてるってことに結人は気付いてないに違いない。ばーかばーか! 俺はお前が思ってるほど馬鹿じゃない。お前は自分では思いもしてねえだろうけど何気に馬鹿なんだ。ばーーーーか!(口で言えない分、心はとてもおしゃべりな状態)
「一馬せんせ〜、愛を補給するためにはどんな食品を摂取すればい〜んでしょ〜か〜?」
「知らねーよっ」
 でも、とりあえず、牛乳じゃないことは確かでしょ。
 ってね、
 英士の口調マネてみたって仕方ないや。俺は英士にはなれっこないんです。ですから、あなたと結婚なんかできません。永遠の愛なんか誓えません。あなたは独りで勝手に思う存分郭英士を想ってればどうですか。もうこれ以上そういうのに俺を巻き込まないでくれませんか。いい迷惑なんです傷付くんです辛いんですもう充分です。いい加減あなたの身勝手さには嫌気がさしてるんですよ。
 カルシウムも愛も足んないあなた。
 もーいーよ。そろそろ見切り、つけてやる。












・終わり・

Dec.10,2000


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