Merry Christmas!
〜今宵あらゆるところで愛の茶番劇が催され、これもまあそれのひとつの例〜


 12月25日午前0時きっかりに、家の電話が鳴る。こんな夜中に一体誰だ、と不愉快に思いながら英士は受話器を取った。はいもしもし郭です、対応の声も自然と刺々しくなってしまう。相手は何も喋らない。いたずら電話だろうか。クリスマスに? なんて暇な奴だ。生憎そんな奴を相手にする暇は無いので、さっさと電話を切ってしまおうとすると、相手が「あっ」と、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を上げた。その声には聞き覚えがあるどころか、英士はその声を決して聞き違えることなどないほどに聞き慣れ過ぎた声だった。英士は慌てて受話器を持ち直す。
「ベランダに出ろ」
 相手は、鼻を摘んで喋ったのだろう、どこかくぐもった声だった。そんなことをしたって、英士は電話をかけてきた相手を間違えるはずがない。一体どういうつもりだ、と問い質そうとしたところで相手は電話を切ってしまう。
 英士は仕方無く、言われた通りにベランダに出た。
 下では電話の相手が、一馬が、手を振っていた。
 英士が唖然としていると、下りて来いよ、と一馬が言う。英士はそう言われてはっと我に返り、慌てて階段を下りて玄関のドアを開け、一馬のいる場所まで走って行った。
「メリークリスマス」
 息を切らす英士に、一馬は両手をコートのポケットに入れたまま、何でもないことを何でもなく言うように言った。
「お前…、一体何のつもり? まさかそれを言うためだけに来たんじゃないだろうね?」
 英士が訊くと、一馬はちょっと考えてから口を開く。
「俺、サンタクロースなんだ」
「…は?」
「サンタを信じてる子どものところに来てやった」
 そこで英士はつい一週間前のやり取りをまざまざと思い返す。



 練習が終わり、いつものように三人で帰っていた。クリスマス目前、街行く人も街自体もいやに浮かれた様子だった。
「小さい頃はさ、当然のようにサンタを信じてたよなあ」
 唐突に、幼少時代を懐かしむように結人が言うと、一馬は即座に「あ、俺は昔から信じてなかったよ」と返す。
「うっそ! まじで? お前今でも信じてそうじゃん」
 結人が一馬の肩を肘で軽く突きながらからかう。一馬はむっとして、お返しとばかりに結人の腕を掴んで捻った。
「痛い痛い痛い!」
「謝れ謝れ謝れ!」
「サンタさんはね、いるんだよ」
 じゃれ合う二人を傍目に見ながら、英士がごく落ち着いた口調で言った。
「「は?」」
 英士の言葉に結人と一馬はピタリと止まってしまう。
「だから、いるんだよ」
 英士はやっぱり落ち着いた口調だった。冗談を言っているようにはとても見えない。
「何言ってんの英士」
「いるんです」
 びっくりしている結人に英士はきっぱりと答えた。
「…英士大丈夫?」
「いるんだってば」
 なんとなく不安になっている一馬に英士はちょっとイライラしながら答えた。
「いないって」
「いないと思うからいないんだよ。いると思えばいるんだ」
「俺は昔は信じてたけどサンタは来てくれなかったぜ?」
「サンタさんもね、色々忙しいんだよ」
 英士がサンタクロースをフォローするようなことを言うと、結人は耐え切れずに吹き出してしまう。
「だ、駄目だ、受ける、やめて、…ぎゃーっはっはっは!」
「笑うんなら笑えばいいよ…」
 大笑いする結人を恨めしげに見つめながら英士が言った。
 一馬はといえば、英士の顔をまじまじと眺めている。
「……何だよ、一馬。何か文句ある?」
「…いや、別に、文句は無いけど…、なんか、英士が『サンタさん』とか言うと気持ち悪いなあ、と思って…」
 一馬の台詞に英士は少なからずショックを受け、結人はさらに笑いのツボを刺激されてしまって目に涙すら溜めながら笑った。
「ちょっと結人、笑い過ぎ。
 …ちょっと一馬…なんかむちゃくちゃ引いてない…?」



「なんとなく、お前の意図は分かった」
 英士は呆れながら、それでもなんだか胸に温かいものが込み上げてくるのを感じていた。歩くのすらままならないのではないかと思われるほどに着膨れして丸々としている一馬が、ちょっとだけ笑った。
「サンタが来てくれて嬉しい?」
 一馬は英士に無邪気そうに問う。こんなことを言って何の照れも無いのだろうか。今日の一馬は、いつもの彼からは想像もつかないような言動続きで、英士は驚かされるばかりだ。
「…馬鹿じゃないの?」
 それは罵倒の言葉ではない。かといって照れ隠しでも愛の言葉でもなく。英士はただ目の前の一馬に対してそう思ってしまい、そんな言葉が口を突いて出てしまった。一馬はいつもだったら真っ赤になって怒るところだが、馬鹿と言われても顔色を少しも変えず、ハーッと息を吐き出して、闇夜に浮かぶ白い模様をどこか満足げな様子で眺めている。
「俺も、英士がサンタ信じてるとか言ったとき、『馬鹿じゃないの?』って素で思ったよ。めっちゃ引いたし。でも、英士って可愛いなあとも思っちゃったんだ。英士のこと、もっと好きになったよ」
 英士は唖然として一馬の話を聞いていた。
「英士も今、引きつつも、俺のこと可愛いとか思ってるだろう。俺のこともっと好きになっただろう」
 ちっとも可愛くない態度だった。人を洗脳しようしてるんじゃないのか? そう英士に感じさせるような口調だった。目の前のいやにふてぶてしい様子の一馬が、自分の知っている一馬ではないように思えてきて、英士はどこか不安になったが、それを上回る興味のような、新しい発見をしたときの喜びや興奮のような感情が胸に湧き上がってくる。そして何故なのか分からないけれど、唐突に言いようのない悲しみの場所にぶつかり、胸が詰まった。
「ほんとに、馬鹿なんじゃないの」
 言いながら英士は一馬を抱き締めた。一馬はひどく着膨れて一回り程大きくなっていたので、英士の両腕は一馬を上手に抱き込むことが出来ない。
「つめたい」
 英士が一馬の額に自分の額をくっ付けながら言うと、一馬は肩を竦めてぎゅっと目を閉じた。
「予定よりちょっと早く着いちゃって。で、12時になるまでここでじっと待ってた」
 おそるおそる、といった感じでゆっくり瞼を上げながら一馬が言う。寒さに震え、一分の長さを痛いほどに実感しながら携帯電話とにらめっこしている一馬の様子が簡単に思い浮かんできて、英士の胸に可笑しさと共にどっと愛情が込み上げてくる。
「お前はサンタさんなんでしょう? プレゼントはくれないの?」
 ゆっくりと体を離し、それでも一馬の両肩に軽く手を置いたままで英士が冗談っぽく訊くと、一馬は口元に微笑みを浮かべながら、右手の人差し指で自分の顔を指差して、オレ、と一言だけ言った。
「…………えっ!」
 そこで英士は一ヶ月ほど前のやり取りをまざまざと思い返す。



 その日一馬は英士の家に遊びに来ていた。ちょっといい雰囲気になったので、これはいけるかもなあと調子に乗った英士が一馬に口付けようとすると、一馬は「やだよ」と言って近寄ってくる英士の口を手で塞いだ。
「なんで? キスくらいさせてくれてもいいじゃない」
 さも不満そうに英士が言うと、一馬は再び「やだよ」と言った。
「お前って身持ちが固いんだね…」
 まあそういうところも好きなんだけどね、と付け足すのは心の中だけにしておいた。口にしたら笑われるか引かれるかのどちらかである気がしたので。
「や、身持ちがどうとかっていうんじゃなくてさ、えーと、うーん、男同士でキスって気持ち悪くねえ?」
 ごくごく素の調子で一馬が言い、英士の心は一瞬にして凍り付いてしまう。
「き、気持ち悪いって、…そ、それはどういう…」
「あっ、わりい。いや、別に、変な意味じゃなくて、なんていうか普通に、ちょっとそれはどうなのかな、っていう」
「………」
「怒んなよ…。深い意味はないんだって。ただなんとなく。あ、英士そのものが気持ち悪いとかそういうんじゃ全然ないからな?」
「………」
 一馬がふと悪気無く発した言葉は英士に大ダメージを与え、とてつもなく気まずい雰囲気が部屋に流れた。
「一馬、お前はほんっとーーに俺のことを好きなの?」
「うん、好きだ。ものすごーーく好きだよ」
 目を据わらせて訊いた英士に、一馬はきっぱりと答える。英士はぱっと明るい気持ちになったがしかし“気持ち悪い”という台詞をこれで帳消しにするわけにはいかない。ついつい誤魔化されてしまいそうになりつつも、なんとか難しい表情を保ったまま「ほんとに?」と疑わしげに重ねて訊いた。
「ほんとだってば。でもそれとこれとはまた話が別だろ」
「一緒だよ」
「男同士じゃん」
「男同士だよ。でも魂に性別は無いんだよ」
「ぶっ」
「な、何笑ってんの!」
「ご、ご、ごめん。だって、英士が突然タマシイとか言うから…びっくりして…」
「………」
「英士が言うように魂に性別が無くてそれで俺達が魂同士で好き合ってるんなら別に無理してキスとかそういうことする必要無いんじゃない? 魂に性別は無いけど身体にはあるだろ? 俺が言ってる『それとこれとは話が別』っていうのはつまりそういうこと」
 ごくもっともなことを一馬が言った。いつもは割と鈍感で迂闊な発言も多く揚げ足を取られがちな一馬だが、変なところで妙に鋭くてもっともなことをずばりと言ってしまったりするから恐ろしい。
「……一馬は…、なんていうか、こう、…ないの? 俺と二人きりでいて、こう、ムラムラすることとか…」
「ぶっ」
「ま、また笑う!」
「ごめんごめん! ほんとにごめん! で、でも英士がムラムラって…あはは、なんか全然似合わないからあんまり人前で言わない方がいいよそういうこと、あはは…」
 笑っちゃいけない笑っちゃいけないと思いつつも堪え切れず吹き出している一馬を前にして、ああこれは駄目だ、と英士はただただがっかりした。こんなふうではいつまで経ってもキスすら出来ないだろう。でもまあそのうち…、と英士は思う。もっと強引に事を進めようとしたり、お願いだからさせてほしいと頼めば、一馬も折れてくれるのかもしれなかった。けれどあんまりがっつくのはプライドが許さない。長期戦でいこう、英士はそう思いながら気を引き締める。一馬はまだしつこく笑っていて、英士はせっかく気を引き締めたというのに先が思いやられて脱力してしまいそうだった。



「色々考えてみたんだけど、多分それが、今俺が英士にあげられるものの中で一番いいものだと思う」
 英士は今度こそ完全に言葉を失ってしまった。わたしをあげる、だなんてそんなの今時…、いや古いとか古くないとかそういう問題ではなく、これはもうなんていうか、貰えるのはそれはもう大変嬉しいことなのだがこんなふうにされると、嬉しくても素直に喜べないというか引いてしまうじゃないか。もっとこう、自然に、ごく無理のない形でステップアップするのが理想だというのに。それにしたって“気持ち悪い”といってキスすらさせてくれなかったのに一体どういう風の吹き回しだろう。クリスマスだからなのだろうか。だとしたらクリスマスという日に感謝すべきなのだろうか。しかし今日の一馬はやっぱりふてぶてしい。今自分があげられる最良のものが自分自身、というか正しく言ってしまえば自分の体だと本当に思っていてそれを口にしてしまうなんて図々しいというか恥を知れというか本当にそんなこと言って恥ずかしくないのだろうかというか。でも一馬の言っていることは正しかった。今彼が英士にあげられるもので一番いいものというのはつまりそれだ。合っている。けれど、あまりにも全ての言動が一馬らしくないので、英士は素直に「はいじゃあお言葉に甘えてありがたくいただきます」と喜んで事態を受け入れることが出来ずに、ただただ驚くばかりで、どのように対応すればいいのか分からなくなってしまっていた。
「寒いから、早く中に入れてよ」
 その言葉を深読みしてしまい、英士はくらくらした。なんだ、結局、なんだかんだぐちゃぐちゃ思ってたってやっぱり嬉しいものは嬉しくて、それどころかもう既に興奮してしまってるんじゃないか。英士は深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けようとした。
 静かにドアを開け、玄関で靴を脱ぐ。怖いくらいに静かで、暗く狭い空間の中、一馬がスニーカーの靴紐を解き、スルリという音がする、その音さえひどく官能的で英士は耳を塞ぎたくなった。今日は家には誰もいない。父親は相変わらず仕事(という名目でしばしば家に帰って来ないことがよくあり、今日もそうなのだが、実際のところは本当に仕事なのかどうかは定かでない)で、母親は友人(女友達だと言っていたが英士は男であると睨んでいる)と、姉は彼氏と過ごすらしく、英士以外の家族は皆家を空けている。英士は数日前、家に誰もいないから泊まりに来ないか、と結人と一馬を誘ってみたのだが、結人には彼女と約束があるからといって断られ、一馬には家族と一緒にクリスマスを祝うことになってるからといって断られてしまった。英士は一人寂しくイブを過ごしていたのである。夜中に家に電話をしてくるだなんて非常識なことを一馬はしない。でも今夜英士以外には誰もいないことを知っていたからかけてきたのだ、と今になって分かる。
「あったかい」
 英士の部屋に入った一馬はそう言ってほっと息を吐いた。電話の後慌てて家を飛び出したので、石油ファンヒーターも蛍光灯も点けたままだった。一馬はコートを脱ぎ、「あ、これ借りるな」と一言断ってから近くにあったハンガーにコートを掛けた。一馬はコートの下にさらにやや薄手の(といってもそれ一枚でも大いに防寒に役立ちそうな)ジャケットを着ていた。通りで着膨れるわけだ。一馬はそのジャケットも脱ぎ、その下に着ているセーターも脱ぎ、その下のカットソーも脱ぎ、と一枚一枚どんどん服を脱いでいく。…ストリップ? いや、違う、そうでなくて。部屋に入ってすぐか。すぐさま事に及ぶつもりなんだろうか。しかもそんな男らしく潔くガンガン脱がれても。英士としてはそういうときには恥じらいながら脱がし合いっこをしたいという淡く甘い夢があったので、その夢をいとも簡単に破られてしまってそこはかとなく失望していた。
「お前は一体何枚着てるの…?」
 展開の速さにいまいち追いついて行ってない英士はぼんやりしつつ独り言のように素朴な疑問を口にしてしまう。言ってしまった後で、俺ってなんだか間抜けだなあ、と思った。実際今この時点で英士は本当に間抜けな様子だった。
 間抜けな英士を他所にさっさと服を全部脱いでしまった一馬は素早くベッドの中に潜り込む。
「英士も早く脱いでこっち来いよ」
 “ベランダに出ろ”に始まって、“(家の)中に入れろ”だの“こっち来い”だの、なんだか今日の一馬は命令形が多いな、そんなことを思いながら、英士はとりあえず着ていたパジャマを脱ごうとボタンに手を掛ける。ふと痛いくらいに視線を感じ、一馬の方を見遣ると、ばっちり目が合った。じっと見られながら服を脱ぐのは居たたまれない。でも、見るな、と注意することも出来ず、せめて後ろを向いて服を脱ごうとして一馬に背を向けると、
「逃げるのか?」
 と鋭い声で一馬が言った。責めるような口調でも、からかうような口調でもなかった。ただ鋭い、それだけ。人の心臓を一瞬にして貫いて息の根を止めてしまうような激しい鋭さがそこにはあった。
「…恥ずかしいから後ろ向いて脱ぐだけだよ」
 声が震えてしまった。一馬が背後で笑う気配がした。くそ、英士は心の中で舌打ちする。でもそんなの、一馬にしてみたら痛くも痒くもない。
 素肌のままベッドの中で触れ合うと、照れ臭さよりも可笑しさ込み上げて、いや、照れ臭さが高じて可笑しさに変わったのかもしれないが、とにかく滑稽な気持ちになって、二人して小さく笑った。どちらからともなく口付け、啄ばむような軽いキスを何度か交わす。初めての口付けなのに、もう今までに幾度となく、それこそ挨拶のように繰り返したと錯覚されるほどに自然で違和感の無い行為に感じられ、そのことが英士にはとても不思議に思えた。
「気持ち悪くない?」
 ふと不安になって口付けの合間に英士が問うと、一馬は笑って首を横に振り、全然、と返してから、
「ムラムラする?」
 と、冗談ぽく英士に訊いた。英士はそれには答えず、今度は深く口付けようとして一馬に唇を寄せると、一馬は突然英士の胸を強く押し返して体を起こす。
「なんだよ、いきなり」
 驚きと不満を露にして英士が問う。
「雪が降ってる音がする」
 一馬はそう言って、毛布を引きずり出して頭からそれを被るようにしてベッドを下り、窓のカーテンを慎重な仕草で開けた。
 一馬の言った通り、外には雪が舞っていた。暗闇に白い雪がふわふわと舞い落ちていく様子に、一馬は感嘆の声を上げる。
「英士、雪だよ、雪! まじで降ってる!」
 英士はベッドから下りないまま、窓の外を眺め、「そうだね」と相槌を打った。
「すごい…」
「そうだね」
 一馬はクリスマスに降る雪にうっとりしていたが、英士は雪よりも何よりもとにかく早く続きをしたいという気持ちでいっぱいだったので、自然と投げやりな相槌になってしまう。
「綺麗だなあ…」
 いつまで経っても一馬が窓の外を眺めているので、英士は痺れを切らして、「雪はもういいから早く戻って来てよ」と不満を口にした。がっつくのは嫌だが、まさにこれからだというところで唐突に中断されてしまっては我慢ならない。英士に文句を言われつつも一馬はしつこく雪を見ていた。
「一馬ー、俺と雪どっちが大事な
「雪」
 英士が最後まで言ってしまわないうちに一馬はきっぱりと返した。
「鬼…!」
 英士はベッドに突っ伏して唸った。
 ごめんごめん、笑いながら戻って来た一馬は毛布ごとするりとベッドの中に潜り込み、突っ伏したままの英士の頭をポンポンと叩く。
「機嫌なおせよ」
 あ、また、命令形? 英士の機嫌はさらに悪くなった。
 一馬は英士の肩を掴んで強引に仰向けにさせ、その上に被さるようにして抱き付いた。
「ムラムラする?」
「…また言ってるし…」
 顔を見合わせて少しだけ笑って、改めて口付け合った。今度はもっとしっかりと。そのうちどんどん気持ちが高揚してきて、互いの体に手を這わせ始める。英士ってほんとに白いな、と一馬にまじまじと体を見つめられながら言われ、英士は思わず赤くなってしまう。
「あ、赤くなった」
 一馬は楽しそうに笑いながら英士の頬に手を当てた。なんだか完全に一馬のペースで、英士は少し不愉快だったし、自分を不甲斐なくも思ったが、まあそれはそれで。
「俺を舐めると痛い目見るよ」
 言いながら英士が一馬の腕を引っ張って体を入れ換え、一馬を組み敷くようにして上から声をかけると、一馬は思いきり吹き出した。
「その台詞、かっこわるー」
「あーうるさい」
 英士は一馬の鼻をぎゅっと摘んだ後、ゆっくりと胸に手を這わ
(以下略)


 英士が目を覚ますともう朝だった。カーテンを通して差し込んで来る光が柔らかく明るい。時計の針は8時を指している。隣にいるはずの一馬がいなかったので英士は大いに驚いた。慌てて辺りを見回したりしていると枕元に置き手紙があることに気付く。
『目が覚めてしまったので帰ります。 一馬』
 どこか他人行儀な感じがなんだか微笑ましくて英士はつい笑ってしまった。それにしても一馬は一体いつ起きて家を出て行ってしまったのだろう。全然気付かなかった。とりあえず服を着て、喉が渇いていたので何か飲もうと思って部屋を出て一階に下りたところで、英士は今度は本当に心臓が止まってしまうほどに驚いた。もうとっくに帰ってしまったものとばかり思い込んでいた一馬が玄関で座り込んでいたのだから。
「ま、まだいたんだ…」
 英士が声をかけると、一馬は一瞬ビクリと肩を竦めてからゆっくりと振り返り、困ったような照れたような誤魔化すような複雑な微笑みを浮かべながら、
「く、靴紐が、上手く結べなくて…」
 と言った。



★おしまい★
来年のクリスマスも一緒に過ごせたらいいネ

 

Dec.25,2001


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