This is between you and me,you know.
コンフィデンシャル
その日は、今にも雨が降ってきそうな天気。空が暗くて、雲が厚くて。
悪巧みを思い付くのには最適な日だったね。
『うん』? え、今、『うん』って言った? 『うん』って。うっそ。『うん』ってそんなふうに完全に肯定するなんて思ってもみなかったよ、英士。びっくりさせんなよ。『まさか』とか『全然』とかって見え見えの嘘の否定をするか、『何言ってんだか』とか『ばーか』とかって誤魔化すか、そんな反応をすると思ってたのに。意表突かれちゃった。 からかい気味に『一馬のこと好きなんだろ?』って英士に聞いたら、英士の奴、すげえあっさりと『うん』って答えやがった。 ショックだった。(意表を突かれたことが) お前がそんなふうに俺の意表を突くような返答さえしなかったら、今後全てはお前の望む方向に進んでたかもしれないのにね。ほんのちょっとしたことが命取りになることってあるんだよ、ほんとに。英士と一馬がくっつくのは面白くないけど、でも、ちょっと後押ししてやってもいいかな(そういうのって面白そうだし)とか思ったりもしてた。でも、もう、そんな考え一気に吹き飛んだ。つい、さっき。だって、『うん』とか言っちゃってるんだよ、英士の奴。一馬をどうこうする勇気も無いのにそんな口の利き方すんのはちょっと可愛くない。なんて生意気な。英士と一馬がくっついてもそれはそれで面白いだろうけど、でも、ちょっと邪魔してやろ。や、ちょっとっていうか思いっきり邪魔してやろ。(そういうのって面白そうだし) |
天気の悪い日がしばらく続いて、なんだかユウウツな気分。
曇りとか雨の日がずっと続いてると気が滅入る。あーなんもやる気が起こらねー。だるいだるい。でも、精力的に一馬にちょっかいを出したりしてる自分って。なんだか滑稽。そんな俺にあっさりなびいちゃってる一馬って。さてはこいつ馬鹿だな? 俺と一馬の様子に一切口出ししない英士。気の毒な奴。 変なバランスの三人。 思い返してみれば、俺達って今までずっと危ういバランスだったのかも。三人のうちの誰か一人が迂闊な言動を起こせば、一気に崩れるバランス。 英士は、今までずっとバランスを崩すのが怖かったり面倒だったりしたのかも。でも、そういうのは酷くくだらないことに思える。バランスを守るために、自分の欲求から目を逸らすなんて。馬鹿みたいだ。 あ、一馬は、『危ういバランス』たるものが三人の間に存在することすら分かってないっぽい。幸せな奴。なんかさ、一馬が幸せであればあるほど英士が気の毒になってく気がするなあ。かわいそ〜。 とか言いつつ、英士の気の毒さにますます拍車をかけようとしてる俺って。 それにしてもここんとこの天気の悪さはなんだよ。いつまでこんなんなんだろ。嫌んなるなあ。 |
その日は、どしゃぶり。雨音うるさい。気温低い。物思いに耽るに相応しい。そんな日。
こんな日は、誰かと一緒に居るよりも、一人で居た方がいいのにな。
雨の粒が際限なく窓を叩いていた。雨の匂いが英士の部屋を充たしていた。 英士の唇に自分の唇を強く押し付ける。 「お前ねえ…」 「これは『ごめんね』のキス」 「…ごめんね?」 「そう。ごめんね、英士。一馬は俺がもらう」 英士、一瞬、瞠目。 その後、ごく冷静な口調で 「『もらう』とか、そんな、一馬を物みたく言うなよ」 可愛いなあ、英士は。ほんとに一馬のことが好きなんだろうなあ。可愛いよ。 でも、可愛いけど、それじゃあダメだな。何も手に入れられないよ? 気の毒に。 「俺は欲しいものをちゃんと欲しいって言う。ちゃんと欲しいって言える。お前とは違う」 そう、俺はお前とは違うんだよ。英士、一馬のことに関しては、お前はかなり分が悪い。俺はこの手のことは相当手際良くやる自信があるもん。英士は自信、無いだろ? 「欲しい欲しいってがっついてまで手に入れたいものなんて何も無いよ」 英士は曖昧な微笑みを浮かべて言った。 それは違う。英士の欲しいものは、英士以上に俺が分かってる。英士がそれをどんだけ望んでるか分かる。本当に欲しくても、(いや本当に欲しいからこそ?)欲しいって言うことさえ出来ないことってあるんだよ。がっつくのが恥ずかしい英士。がっついても手に入らなかったらという仮定に怯えている英士。でもやっぱりどうあがいたって結局は一馬が欲しい英士。でもなんだかんだと言い訳する英士。俺とか一馬に言い訳するのは結構だけど、きっと自分自身にさえ言い訳してるんだろうな。英士ってダメだなあ。全然ダメだ。 「そんなんじゃ、いつか後悔するよ」 そう言ってやると、英士は「後悔なんか、今までにもう何回もしてる」と淡々と答えた。 後悔だらけの英士。ダメだなあ。後悔なんか、今まで一度もしたことないよ、俺は。そんで、これからもそんな感じで生きていく。多分。英士はこれからも当分は一馬のことでいっぱい後悔するんだろうな。勝手にやってろ。一生やってろ。 「ほんとお前って馬鹿だね〜」 英士、こんなにも大いなる愛の言葉がある? これ以上の愛の台詞があってたまるか。 俺に『馬鹿だね』なんて言われた英士は、大した表情の変化も見せずに一言。 「悪かったな」 悪くないよ。 そう、お前のそういうところは悪くない。英士のこういう悪くないとこを一馬は全然分かってない。一馬は英士の気持ちとか何にも分かってないんだから。でも、一馬のそういうところ、悪くないよ。 悪いのは俺一人で充分。 なんてね。 |
しばらく続いてた悪天候が、ある日突然別れを告げる。
空が晴れるのを心待ちにしてたけど、こんなにもあっけなく雨雲が通り過ぎちゃうとなんか気が抜ける。
その日は、昨日までが嘘みたいにとても天気が良くて。空は青くて、雲一つ無い。
思わず秘密を告白してしまいたくなるような、そんな日だった。
「一馬、俺のこと好き?」 「……」 案の定、言葉に詰まる一馬。 「好きかって問いに対する答えは『イエス』か『ノー』しかないぜ。沈黙はアウト、誤魔化すのもアウト。逃げんなよ、一馬」 追い詰める俺。 「俺は英士みたいに甘くない。中途半端なのは嫌いだし許せない」 さあ、一馬、答えは? 「………そりゃ…まあ、お前のこと、好きだけど……」 「好き『だけど』? だけど、何? 続き言ってみろよ」 「…好きだよ」 「よし!」 「お前、強引過ぎるよ」 「でも、きっと、一馬は俺のそういうとこが好きなんだと思うよ」 一馬、絶句。 「…信じらんねえ…」 一馬、もっと俺を好きになれ。 それこそ、信じらんねえくらいに。 一馬の頬っぺたは赤くなってて、可愛かった。あんまり可愛いので、思わず手を伸ばして頬に触れてみる。 「一馬は可愛いね〜!」 でも英士の方がもっと可愛いんだよ。知らないだろ、一馬は。英士が可愛いだなんてこと。 『可愛いね』って言われた一馬はすっごい怒った。でもそういう様子も可愛いと思った。けど、やっぱり可愛さだったら、一馬より英士の方が上だなあ。一馬、もう一息。もっと可愛い反応で俺を楽しませてくれることを今後に期待。 「俺と英士どっちが好き?」 一馬の頬に手を置いたまま唐突にそんなことを訊いてみた。一馬は、何をそんな今更、なんてふうな、驚いたような呆れたような顔をする。言葉にして言ってよ。ちゃんと。『英士より結人が好きだよ』って言ってよ。…うわー、それ、英士に聞かせてやりてえな〜。 答えろよ、って一馬を急かす。そしたらやっと、一馬が重たそうに口を開く。 「英士には秘密な」 一馬は続けて、 「結人が好きだよ」 ってもぞもぞと言った。 やったね。 じゃあ、俺も、秘密の話。 俺はね、一馬と英士だったら、英士の方が好きなんだよ。 一馬にも、英士にも、秘密の話。 ベッドの上で一馬と二人でじゃれ合ったり色々してる間、点けっぱなしのテレビから六時のニュースが流れてた。ニュースなんかに全然気を取られてないよ、なんてふうを装いながら、俺の意識は密接してる一馬よりもニュースの方に集中してた。(俺って器用だな〜) 天気予報によると、明日は、最高気温28℃最低気温23℃降水確率は午前午後ともに0%洗濯指数100! よっし、明日も晴れそう。 でもどんなに空が晴れ上がったって、秘密は奴らには暴かれないまんま。 秘密はどんどん腫れ上がってくね。 |
・終わり・
Sep.20,2000
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