◎清く! 正しく! 美しく!


まじめに! 男男交際

「なんで英士は彼女つくんないんだろ」
 だって見ちゃったんだ。英士が告白されてんの。すごい可愛い子だった。大体の男は振り向くような綺麗な子。英士の隣りに絶対似合う。でも、英士は断ったみたいで。女の子は泣いてた。…かわいそ。
「なんでって…」
 結人が読んでた雑誌から顔を上げた。
「やっぱ女よりサッカーだからかな」
「や、ていうか。女より一馬だからだろ」
「…………………は?」
「なに。お前。そんなことも知らなかったのかよ」
「な、なにが??」
「英士って一馬のことが好きなんだよ? お前、ホントにホンキで知らなかったのか?」
 知らない知らないそんなこと知らない初耳!
「うん」
「『うん』じゃねーよ。気付くだろ普通」
「気付かねーよっ。ていうか、それマジで?」
「どう見てもそうじゃん。どう考えてもそうとしか思えないだろ」
「えーっ」
「そこまで鈍感だともはや病気だな」
「そんな…」
「よっ、この男泣かせ!」
「な、なんだよ、それは!」
「じゃ、訂正。よっ、この英士泣かせ!」
 泣かせてねー泣かせてねー。

 こういうことは本人に聞くのが一番! でもすげー聞きづらいんですけど。あーでも気になるし。というわけで、うっかり聞いてみた。さり気なさを装いつつ。(それにしても。いつもはアレなんだけど、俺って変なとこで後先考えず妙な大胆さを発揮するなあ、自分で言うのもなんだけど)
「英士って、俺のこと好きなのか?」
 我ながら、恐ろしいくらいの単刀直入ぶり。(さり気なさの欠片もねえ)
「…どうせ結人に何か吹き込まれたんだろ?」
 英士は相変わらず勘がいいな…(ていうか、俺がワンパターンなだけ?)
「う、うん」
「ま、いいけどね。俺は一馬のこと好きだよ」
 そんな平然と。
「ふ、ふう〜ん」
 こっちも極力平然さを装ってみたけど、どうも無理が…。
「それだけ?」
「えっ?」
「一馬は? 一馬は俺のことどう思う?」
「どうって…」
「五段階評定でいこうか。
 1.嫌い 2.どちらかといえば嫌い 3.どちらともいえない 4.どちらかといえば好き 5.好き
 1〜5のうちどれに当てはまる? どれが一番自分の考えに近い?」
「…そりゃ…、好きだけど…、
5だけど…」
「そ。よかった。じゃあ話は早いね。一馬、つきあおう」
「えっ!? つきあうって? 英士と俺が?」
「話の流れから考えたらそれしかないでしょう。他に誰がいるの」
「いや、それは…」
「何か問題ある?」
 問題? そんな! 問題ありまくりだ!
 それにしても、
「つきあうって……」
「一緒にご飯食べに行ったり映画見に行ったり買い物したり、ね」
「それじゃ今までと一緒じゃん」
 そう言ったら、英士が少しだけ笑った。
「ま、今すぐ返事しろとは言わないよ。そうだな、明日まで待ってあげる。今日家に帰ってゆっくり考えてみてよ」
 ちょ、ちょ、ちょっと待て。なんか、お前、妙に強引じゃないか!?
「では、色好い返事を期待して待っています」
 妙に恭しく英士が言った。
 えーっ。
 えーーっ。
 えーーーっ。
 えーーーーっ。

 その夜結人に相談してみようと思って、携帯にかけてみたけど出ないし。
 十分後、しつこくもう一回かけてみる。
 − − − あ、出た!
 と、思ったら、
「バカ!!! てっめー! 人が『やまとなでしこ』見てるときにかけてくんじゃねーよっ! 今はCM中だけどさ! もーさっき携帯鳴ったときは死ぬほどびっくりしただろうがっ! ちょうど良いとこだったのによ! 盛り上がってる気分に水差しやがって! むかつく! 許さん! 死ね! てめー次会ったとき覚えてろよ! 殺すからな! ていうかてめーも月9見ろバーカ! この非国民! つーわけで、9時55分以降に、も1回電話し直せ! 以上!」
『プツッ』

 …!!!(衝撃)
 な、な、な…!(←言葉が出ない)

 とまあ、そんな感じで、しばらく唖然とした状態が続いた。

 十時過ぎ、家の電話が鳴る。(あー、結人からかもなー。あー、恐ろしいー)
 受話器越しの結人の声はとても陽気なもので…、
「やっほ〜〜〜〜! かっずま〜、元気〜〜〜??」
 こ の 野 郎(途端に込み上げてくる怒り)
 俺は無言。
「あっ、なになに? 怒ってんの〜? もー、怒んないでよ、かずま〜! 機嫌直せって! な? なっ? さっきは悪かったよ。言い過ぎました。でも、一馬にも非はあるんだぞ? ま、いいや。お互いさっきの件はキレイサッパリ水に流して仲良くしましょ。んで、何の用だったわけ?」
 …呆れた…。もういいや。とりあえず俺は、結人に一部始終を話したのだった。
「いーじゃん!」
 というのが、話を聞いた後の結人の第一声。
「何がいいんだよ」
「つきあっちゃえつきあっちゃえ!」
「そんな簡単に…」
「でも簡単なことだろ。とりあえず付き合ってみるべきだと思うねー。で、なんか駄目っぽかったら別れたらよし。大丈夫大丈夫。そん時はそん時で、ま、友達に戻れるって」
「お前な〜、他人事だと思ってー」
「何だよ〜。俺はちゃんと真剣に考えて相談に乗ってやってるっていうのに〜」
「でもさ、つきあうって言ったってなー。別に一緒に遊んだりとかだろ。今までと変わんないじゃん。何のためにっていうかさ、」
「変わんないことはねーだろ。ほら、アレだよ、アレ。やらしーことしたりな」
「…………………俺と英士で?」
「そ」
「…想像つかねー」(ていうか想像したくない)
「ふーん? 俺は想像つくけどな〜。なんか一馬と英士ってさー、一馬さえオッケーしたら、今すぐにでも行き着くとこまで一気に行き着いてしまうっていうか? そんな感じ? するんだよな〜」
「………………………………」
「おーーーーーい! 引くなよ〜! 戻ってこ〜〜い!」
 引くよ! 引く引く! 今、本気で心が冷たくなった。あああ…さ、さむい。せ、背筋が凍る…。
「どーしよ…」
「だ・か・らー! 一応付き合っちゃえって! いーじゃん、英士! 見た目悪くないしな。それに割と何でも出来るし? 一馬には優しいし? まさにアナタの彼氏に最適です。も〜自慢のカレになること間違い無し★! 良かったじゃん」
 …なんてわざとらしいんだ結人。
「俺、女の子と一回も付き合ったことないのに。最初に付き合うのがまさか英士とは…」
「ま、人生色々あるって。細かいことは気にすんな」
 細かいこと? これって細かいことなのか??
 そんな感じで、結人は押す押す・俺は引く引く、な会話がしばらく続いて、気付いたらサッカーの話題になってたんだけど。(英士の話はどこに?)
 で、夜も遅くなったので電話を切った。
 結局、英士の件に関しては、
『とりあえず付き合っちゃう』という結論に落ち着いたわけだけど。

 寝る前、ベッドの中で色々考えてた。
 英士が俺のこと好きって知ったとき、悪い気はしなかった。悪い気しないっていうか、むしろ、そう、はっきり言ってしまうと、実は嬉しかったりして。そう、ほんと、嬉しかったんだ。でも、結人が言ってたような『やらしーこと云々』『行き着くとこ云々』とかそういうのが関わってくると話はまた別。なんか、そういうこと考えてたら心が寒くなってくる…。あ、でも、キスくらいならいっか。うん、英士だったら、いいや。キスくらいなら。って。何を考えてるんだ、何を。
 なんかさ、色々不安。英士が俺のこと好きっていうのは嬉しいけど。付き合うとかそういうことになってくると不安。そもそも、あいつ、本気で言ってんのかな? もしかしたらからかわれてたりして。明日俺が『付き合うよ』と応えたら、『やーい、ひっかかってやんのー。これはドッキリなんでしたー!』とか言われたらどうしよ(被害妄想)。それに、付き合ったりしたらさ、俺って、英士に上手くあしらわれそー。だって、どう考えても、俺の方が要領悪いし。分かんないこと多いし。色々、なあ。
 それにしても。英士ってほんとのほんとに俺のこと好きなのかな。妙に平然と『好きだよ』とか言ってくれちゃって。普通、あんな淡々として告白できるもんか? あー、あやしい。すこぶるあやしい。…いや、今大事なのは英士の気持ちもそうだけど、それよりも俺自身の気持ちのはずだ。自分の気持ちか。よく分かんない。いや、分かんないことはないんだけど。だって、俺は、そう、うん、嬉しかったんだ。結局、なんだかんだいっても、とにかく、嬉しいものは嬉しい。びっくりして、戸惑って、不安になって、疑って、でも、どっか確実に胸ん中が甘い。俺、英士のことが好きなのかな。好きなんだろうな。たぶん。…たぶん。でも、まだまだ時間が必要だ。

……………うーーーーん。ね、眠れない。



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