一途



「俺って生命線短いんだよね」
 なんてことをいきなり英士が言い出して。
「ふうん? そーなんだ?」
 なんていうかさ、そんなこと言われたってどー反応していいか分かんねーんですけどー。生命線がどれだかも分かんねーんですけどー。興味無いしね。ていうか手相に興味持ってる男子中学生ってどうかと思うんだけど。でも英士だからなー。また話が別だよな。こいつ、趣味が囲碁と釣りだからな。手相とかに精通してても頷ける。うん。なんとなくな。
「俺は多分成人する前に死ぬね」
「おいおい、英士」
「生命線短いんだよ、ほんと」
 自分の左の手のひらを真剣に眺めてる英士。どうなんだよ。何こいつ。素で言ってんのか? まじなのか。やばいなあ、もう。
「どれどれ、ちょい見してみ」
 言いながら、俺は英士の手のひらを覗きこもうとする。
 次の瞬間、
「ギャッ!」
 俺は思わず小さく悲鳴を上げた。だって、英士の奴がいきなり俺の鼻をギュッてつまみやがったんだもん。くっそーこいつ、最初からこれが狙いだったんか!
「てめー、なんてことすんだよっ」
「ちょっとしたイタズラだよ。可愛いもんじゃないか。お前がいつもしてるようなタチの悪いイタズラに比べたら」
「なんだよー。俺が何したっていうんだよー」
「自分の胸に聞いてみれば」
 って、英士が言うから。
 自分の胸に聞いてみました。

 ☆★☆★ (※自分の胸に問いかけてる最中です)

 結論、
「思い当たるフシがねえな」
「お前って最低」
「あっ、最低って言った!? 最低って言った! ひでー! 最低って! 最も低いって! うわ〜、お前すごいこと言うね〜。鬼だね〜!」
「…大げさだね、お前は」
「なんだよー。大体、英士…、さっきのイタズラは可愛いっつーか稚拙? 子供騙しだな」
 ってそんな技に引っ掛かった俺のほうがなおアホだ。
「我ながら、純情パイン並みだとは思ったけどね」
 え?
「じゅんじょ……、ってなんで英士、ジャンプネタでくるわけ?」
 英士、ジャンプ読んでねーのに。マガジンもサンデーも読んでないけど。英士はそーゆーのあんま読まねんだよな。
「最近ちょっと読んでるんだよ、ジャンプ」
「まじで?」
「うん。結人との共通の話題を増やしたいがために、ね」
「えっ!」
 珍しいこと言うもんだから、本気で驚いた。ていうか、嘘っぽいなあ、こいつが言うと。
「俺って一途でしょ。惚れ直した?」
「自分で言うな。自分で!」
 ガハハと笑って突っ込んでやる。もー英士は何気におもろいんだから。素なのか狙ってんのか分かんねえけどな。でも、まあ、そういうとこも好きだよ。ほんとにね。
「俺さー、パイン嫌いなんだけど。実は」
 ジャガーのが絶対面白いよな。どう考えても。俺が言うと、英士はちょっと不思議そうな顔した。
「俺は好きだけど」
「へえ、意外」
 なんか英士の趣味がよく分からなくなってきた。
「純情パイン面白いじゃないか」
 あ、こいつ、まじで言ってるよ。顔、ちょっと真剣だよ。
「そっかなー。面白いのかなー」
「面白いよ!」
 あ、なんだよ、英士。今、語尾にびっくりマーク付いてなかった? 付いてたよな? 付いてた付いてた。そんな力込めて言うようなことなのか? お前そんなにパインが好きなのか? ていうか、もうこれ以上パインについてあーだこーだと語り合いたくないんですけど。無益だよ無益。語り合うどころか論争になったらどうしよう。パインは面白い!・いや、面白くない!・いや、面白い!・いや、(以下延々)みたいにさー。うわー不毛、な上なんか不吉。話題を変えよう話題を。と、思ってはみたものの。
「一馬もパイン嫌いだって言ってたぜ?」
「えっ。一馬も? …面白いのに…」
「そうか〜〜?」
 分かんねえな〜。もう。
 でも来週からは、もっとちゃんと読んでみようかなー、パイン。何がどのように面白いのか研究してみるとするか。
 英士との共通の話題を増やしたいがために、ね。
 お〜、俺って一途じゃん。惚れ直せよ、英士!







終わり





Nov.6,2000
純情パイン、懐かしい。
好きでした。


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