犬に追いかけられてズボンの尻の部分を食いちぎられるのはのび太だけ。

オンリーユー

あなたの駄目なとこを掛け値無しで心から愛せるのは多分ぼくだけ。


 こんにちは、若菜結人です。今日はぼくと英士の話をします。英士というのはぼくの友人というか恋人というか、いや、恋人て(思わず鼻で笑いつつ)。それはどうだろう。まあそんな感じです。よく分からない説明ですいません。実はぼくにもよく分かりません。ぼくと英士はまあ仲良しです。いや、なかよして(思わず考え込みつつ)。どうなんだろう。いや、仲良いですよ。すごくね。どれくらい仲が良いのかというと男同士だというのにチューしたりそれ以上のこともしてしまったりするくらいなんですが、それで仲良いと言ってしまうのってどうなんでしょう。ぼくは英士のことは好きなんですが、女の子に抱く好意とはまた違った感じです。好みの女の子に対しては可愛いなあと思うし触りたいなあとも思うけど英士に対してはそういう気持ちにはなりません。英士は全然可愛くありません。むしろ憎たらしいです。むかつきます。特に触りたいとも思いません。うなじは興味本位でたまに触りますがもう飽きました。ぼくから積極的に英士にチューとかそういう接触を望んだことはありません。英士が望めば、まあ英士とだったら別にいいかな、と思ってどうこうしたりしています。英士は多分ホモなんでしょう。二人きりになるとやたらぼくの体に触りたがります。まあ悪い気はしません。悪い気はしないあたり、ぼくも根っこの部分はホモなのかもしれません。でも認めたくありません。認めたくはないのですがなんだかんだいってもぼくは英士のことを好きなんでしょう。ぼくは割と一途なんですよ。英士と寝てからは女の子と付き合ったことありません。一途というか義理堅いというかね。あ、信じてませんね? いいですよ、別に。信じてもらえなくても。英士にも全然信じてもらってないようだし別にいいです。

 全然話は変わりますが、英士は一馬をまるで一人娘のように可愛がっています。あ、一馬というのはぼくと英士の共通の友人です。ぼくと英士と一馬は仲良しトリオなんです。なかよしとりお。いい響きですね。で、話は戻りますが、英士の一馬に対する構い様といったら異常なんです。英士は一馬のことを何でも把握しておかないと気が済まないようで、…ああこれはかなり前の話になるんですが、一馬の家に行ったときのことです。一馬がトイレに立った隙に英士の奴は一馬の部屋を家捜ししようとしたんです。勿論ぼくは止めましたよ。それはプライバシーの侵害だ、と正当なことを言って英士を説得しようとしました。でも英士は「どこかに日記帳があるはずだ…日記帳…日記帳…」なんてブツブツ言ってぼくの話を全然聞かないんです。それにしてもどうして一馬が日記をつけていると端から決め付けているんでしょう。そのへんに英士の一馬観というのがよく表れていると思います。結局早々に一馬がトイレから戻って来たことによって英士は一馬の日記帳探しを断念させられたわけです。あとこれはまた別のときの話なんですが、英士はやはり一馬がトイレに立った隙に一馬のベッドの下を調べていたことがあります。「エロ本が出てきたらどうしよう…見て見ぬ振りをしなくては…」とか呟いていました。英士って自分では気付いてないと思うんだけど独り言が多いんです。ちょっと(どころじゃないよなあと思って首を傾げつつ)気持ち悪いですよね。そんな感じで、英士の奇行は日常的なものなんです。

 数週間前の話です。事件、というほどでもないんですが、いや、事件と言ってもいいかな、事件が起こりました。一馬に彼女が出来たんです。英士は大反対しましたよ。いやあ、その時の英士の様子といったらとんでもなかったです。大声で「許しませんよ!」とか叫ぶわ、見たこともない一馬の彼女に対して「その女は魔女だ!」とか言い出すわで大変なことになっていました。怖かったですよ、ええ怖かったですとも。でもちょっと面白かったです。まあ、そこまではまだいいんですよ。なんと英士は、一馬と一馬の彼女の記念すべき初(だと思われる)デートを尾行するだなんて言い出したんです。驚きましたよ、ええ驚きましたとも。頭おかしいですよね。でも「お前頭おかしいよ」なんて言えませんでしたよ。ぼくこう見えても割と気が小さいんです。いや、ほんとに。ていうか、素で怖かったんです、英士が。だってもう目がイッちゃってましたもん。で、ぼくは尾行に付き合わされたわけです。まあその時のことは思い出したくないので割愛します。

 そんなこんなで一馬に恐ろしいほど構っている英士なんですが、最近は少し子(=一馬)離れしてきたみたいです。前ほど一馬一馬言わなくなりました。一馬は一馬で彼女との約束もあるしあんまりぼくたちと遊べません。一馬に彼女が出来たと知ったときは、ああこれは(英士が)大変なことになるなと思って、一馬を祝福したい気持ちはあったんですがすごく不安で不吉な予感でいっぱいだったんですよ。実際その予感は大当たりだったんですけどね。でも、今になって振り返ってみれば一馬に彼女が出来たことは、英士にとってそう悪くない影響をもたらしたと思うんです。英士もいつまでも一馬に構ってばかりじゃアレですからね。まあ、それはそれで見てて面白いのでぼくとしては結構なんですが、英士本人のためにはならない気がするんですよ。英士本人のことはどうでもいいとしても、一馬にしたらありがたさよりもありがた迷惑なところの方が大きいと思いますし。とにかく英士は徐々に子離れしてきてるわけです。進歩です。人間って進歩する生き物なんですね。素晴らしいです。それにしても、なんだか話すことにだんだん疲れてきました。というか飽きてきました。それに小腹が空いてきました。お菓子か何か食べたいです。…あ、お菓子で思い出しました。数日前のことです。ぼくは英士の家に行っていました。一馬は彼女とデートでした。ぼくと英士は二人でビデオを見たり(英士が一人でつまらなさそうなのを見てました。ぼくは寝てました)、ゲームをしたり(ぼくが一人でやってました。英士は雑誌を見てました)していました。そんなふうに楽しく(別に楽しくありませんでした)過ごしているうちにふと小腹が空いたので英士に言いました。
「なんか菓子ねーの? 菓子」
「柿ピーがあったような気がする」
「柿ピーか」
「柿ピーしかないよ」
「柿ピーねえ」
「いらないならいいよ」
「いるいるいります」
 ぼくは柿ピーというとても美味しくて高価なお菓子をごちそうになりました。
「チッ、しょぼいよなあ。俺が来ることは前から分かってただろ。もっと洒落た菓子用意しとけっての」
「文句言うなら食べるな」
「食べる食べる食べます」
 ぼくが柿ピーを遠慮しつつ上品に食べている間、英士は何かベラベラ喋っていましたが、ぼくはあまり聞いていませんでした。
「はあ…今頃一馬は彼女とデートか…」
「うん、ポリポリ、そうだな。ポリポリ」
「はっ! 一馬が彼女にいきなり襲われていたらどうしよう!」
「うーん、ポリポリ、大丈夫なんじゃねえの? ポリポリ」
「どうしよう、一馬の貞操の危機だよ! 大事に至る前に一刻も早く助けに行かないと…」
「うん、ポリポリ、いってらっしゃい。ポリポリ」
「あわあわ、どうしよう、敵がものすごい魔法攻撃を仕掛けてきたらどう対処すればいいんだ。警察を呼ぶべきか」
「うーん、ポリポリ、ものすごい魔法攻撃って、ポリポリ、どんなだよ。ポリポリ」
「どんなって…、どんな…、ど、どんなだろう…」
「ポリポリポリポリポリ」
「ちょっと…結人…
「ポリポリポリポリポリポリポリポリ」
「ゆ
「ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ」
「ああもう! ポリポリポリポリうるさいよ!!!! 頭がおかしくなりそうだ!」
 頭がおかしいのは元からだろ!
 思わず突っ込みそうになりましたよ。突っ込みませんでしたけどね。
 英士はそのあとなんだかぐったりとしていました。きっと“ものすごい魔法攻撃”について考え過ぎて疲れたんだと思います。アホです。
「あ、英士、飲み物がなくなった」
「自分で取ってくれば」
「ちぇっ」
「ついでに俺の分もよろしく」
「くそっ」
 喉が渇いてましたし、仕方なく冷蔵庫まで行こうとしたんです。そのときインターホンが鳴りました。
「結人、ついでに出て」
 この男、人使い荒いですよね。ほんとむかつきます。
 英士の家を訪ねて来たのは一馬でした。
「あ、一馬」
 ぼくがそう言ったら英士は途端に飛び起きて玄関まで走って来ました。
「かっかっか一馬。今日は来れないんじゃなかったの?」
「うん、来れないはずだったんだけど、予定より早めに別れたから」
「ついに別れたの!?」
(狂喜)
「えっ! いや、そういう意味の別れたじゃなくて、今日のところは、って意味なんだけど…」
「ああ、そう」
(落胆)
 英士と一馬の会話を聞いていると面白いです。
「まあとにかく来てくれて嬉しいよ。上がって上がって。あったかいココア入れてあげる
vvv
「うん」
「おーおー、やけに待遇が違うじゃねーか」
「あ、そういえば、昨日近所の人に貰ったクッキーの詰め合わせがあるんだった。一馬、食べるよね?」
「おーいおいおいおいおい!」
 さすがのぼくも切れかけました。
「てめ〜、さっきは柿ピーしかないって言ったじゃん」
「しょうがないでしょ。一馬の顔を見たらクッキーのこと思い出したんだから」

 …ぼくさっき、英士も徐々に子離れしてきてるとか進歩したとか言った気がしますが、撤回してもいいですか? なんだか英士は全然変わってないような気がしてきました。







Nov.9,2001



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