触らぬ郭に崇り無し
サワラヌカクニタタリナシ

(-l-)<desyo!
デショ!

ということはつまりアレだ、触っちゃったら祟っちゃうんです


 選抜の練習の帰り、三人は近くのファーストフード店で食事をしている最中だった。
「一馬、それ、みっともないからやめな」
 鋭い声で英士に指摘され、無意識のうちにストローをガジガジと噛んでいた一馬ははっとして顔を上げる。一馬にはストローを噛む癖があった。それを見かける度に英士は口を酸っぱくして注意するのだが、なかなか一馬のその癖は治らず、彼が使用した後のストローの先はいつも平べったくなってしまって原形(筒状)を留めていない。
 英士に注意を受けた一馬は、教師にいたずらを見咎められた児童のようにしゅんとして、ストローから口を離す。しかし、それから数分も経たないうちに、一馬はまたストローに口を付け、無意識にガジガジとやっていた。
「一馬」
 底の方に怒りを秘めたような低く押し殺した迫力のある声で英士が一馬の名を呼んだ。名前を呼ぶ以外には何の言葉も発していなかったが、一体何度言ったら分かるんだ、という呆れと怒りが英士の声だけではなく眼差しからも窺え、一馬は一瞬びくりと身を震わせた後、項垂れた様子で「悪い」と謝罪の言葉を口にした。そんな様子を見ながら、結人は一馬が可哀相にも情けなくも思えて、なるべく軽い調子を装って助け船を出す。
「別にいいじゃん、ストロー噛むくらいさあ。細かいことでぐちゃぐちゃ言ってんなよ」
 結人のフォローを、英士は「駄目だよ」と言ってぴしゃりと跳ね除ける。
「そりゃ俺達の前でだったら別にいいよ? でもね、こんな癖が完全に身に付いてしまったら後々困るだろ? もっと大勢の人がいる場所とか正式な場面とかそういうところでこんな幼稚な癖を見られたら恥をかくのは一馬だよ? 悪い癖は治せるうちに治した方がいいに決まってる」
 淡々とした口調で、それでも厳しく英士が言った。
(何度言っても治らねーんだから仕方ねーだろ。これはもう治らない癖なんだよ。治らない癖なんだったら治すように努力するんじゃなくてこれは治らないものなんだと綺麗に諦めて受け入れてその癖とどう上手く付き合っていくかを考える方が得策じゃないか)
 結人はそう思ったが、口にはしなかった。こっちがどう言ったとしても英士はどうせ言い返してくるに決まってる。一馬の他愛無い癖一つを取り上げて英士と泥沼のような論争に陥るのも馬鹿げた話だ。
「お前は一馬の保護者かっつーの」
 捨て台詞のつもりで結人はそう言った。このへんでこんな話題は終わりにしてしまいたかった。
 英士と結人のどこか険悪なやり取りに一馬はとにかくヒヤヒヤハラハラしていた。何より話題に上がっているのは自分のことである。一馬は胃がチクチク痛むような思いだった。
「もしかして嫉妬してるの?」
 片方の口の端を吊り上げて英士が笑った。嫌な笑い方だった。
 プチリ、と音を立てて頭の中で何かが切れるのを結人は感じた。
(嫉妬? 一体、どこを、どのように、捉えたら、そういう、ことに、なるってゆーんだ!!!)
 結人は大声で反論したい気持ちを理性で押さえ込み、ガタンと音を立てて席を立つ。
「ゆ、結人!?」
 一馬は結人が店を出て行く気なのではないかと思い、慌てて結人の腕を掴もうとしたが、今にも爆発しそうな結人に迂闊に触れてしまってもいいものかどうか判断がつかず、行き場の定まらない手を宙に漂わせたまま口をパクパクさせたりしていた。
「ト・イ・レ!」
 結人はそう行ってその場を立ち去った。彼らの隣りのテーブルに座っていたカップルが唖然とした様子でこちらを振り返る。軽い雰囲気のファーストフード店とはいっても、ここは食事をするための場所で、そんなところでトイレなどという単語を周りにも聞こえるような大声で発するのはマナー違反だ。
「ちょ、ちょっと、ゆ、結人…」
 思わず立ち上がって追いかけようとする一馬の腕を掴み、英士は淡々とした口調で制止した。
「ほっとけばいいんだよ」
 簡潔で、そして過酷なほどに冷たい響きを持った声だった。その声はばっちり結人の耳に届いた。結人の耳に届くように英士は言葉を発したのだ。

 洗面所の扉をバタンと音を立てて閉めた瞬間、胸にどっと込み上げて来るものがあって、気を抜けば結人は今にも涙を零してしまいそうだった。洗面台の大き過ぎるほどに大きな鏡をふと見ると、泣きそうな顔をした自分と目が合い、結人は一気に気持ちが冷めていくのを感じた。何を今更、と結人は思う。
(今更こんなことで傷付くわけがない。馬鹿みたいだ)

 二人だけになったテーブルには、ただただ気まずい雰囲気が流れていた。気まずさを感じているのは実際は一馬だけであって、英士は何事も無かったかのように淡々と食事を続けている。ハンバーガーを食べているというのに、仕草といい醸し出す雰囲気といい高級フランス料理でも食べているかのような優雅さだった。
 一方、一馬は、結人が心配なのと、この場の沈黙に堪えられないのとで、とにかくそわそわして落ち着かない。
「な、なあ、英士、なんか結人遅くねえ?」
「……」
「あと、えーと、英士、なんかあったの? 今日ちょっと機嫌悪くねえ?」
「……」
「…あの、なんで、黙ってる、ん、ですか」
 思わず敬語になってしまい、一馬は自分の情けなさにちょっと泣きそうになった。
「一馬は他人の心配よりも自分の心配をした方がいいんじゃない?」
 食べるのを一旦中止して、一馬の目を見ながら英士が言った。
「え…」
 何のことを言われているのか咄嗟には分からずに、一馬は戸惑う。
「今日の動き、悪かったね」
 英士は今日の練習での一馬の調子のことを言っているのだ。一馬は途端に口を噤む。痛いところを突かれてしまった。今日はくだらないミスを何度かしてしまって、何故そういうことになったのかというと実は練習中に他事を考え続けていたせいで、そういうことはちゃんと自分でも分かっていたので、一馬は言い返すことが出来なかった。いつもなら、一馬が自分で分かっていることについては、英士はこんなふうには注意しない。英士が一馬に対して注意するのは、言わなければ分からないだろうことだけだ。例えば、一馬が無意識のうちにやってしまうストローを噛む癖についてとか。
「この手のプライベートなことに踏み込むのは気が引けるけどね、
 あんまり浮ついてるんじゃないよ」
 その言葉で一馬は頭をガツンと殴られたような気分になった。“この手のプライベートなこと”というのは、異性との交際について言っているのであって、具体的には一馬がつい先日から同じクラスの子と付き合い始めたことを指している。確かに初めて出来た彼女というのもあって、一馬の心はふわふわしてしまったりもしていた。そのことは自分でも気付いていたし、それがサッカーに影響することは許されないこともよく分かっている。頭では分かっていることが、実際の行いに反映されるかといえば、まあそんなに上手くいくものではなく、こと恋愛が絡むと面倒で、恋は人を狂わすと昔からよく言ったものではないか。かといってそれを今日の不調の理由にするのは以ての外。改めてそれを英士に指摘され、一馬は心臓を握り潰されるような思いだった。
「そんな泣きそうな顔するんじゃないよ。俺はお前のためを思って言っているんだよ。それは分かってくれるね?」
 分かっている。一馬はそんなことは本当に分かり過ぎるくらいに分かっていた。ストローのことにしたってそうだ。でもそれにしたって言い方があまりにもきついじゃないか。いつもとは随分調子が違う。それもこれも、英士を刺激しないよう黙って結人を待ってれば良かったものを、沈黙に堪えられずつい無駄に口を出してしまったせいでこんなふうに耳に痛いお咎めを受けているのだとしたら、それこそ“やぶへび”というやつではないか。一馬は自分の迂闊さを呪いたくなった。きっと自分は墓穴を掘ってしまったのだ、と一馬は思う。そしてこれからはこういうことはないよう気を付けようと決意する。“触らぬ郭に崇り無し”、一馬はそんなことを頭に思い浮かべてみたものの思い浮かべた直後になんとなく不吉な気分になったりしつつ、今ここには居ない可愛く優しい彼女に思いを馳せてちょっとうっとりしてみたりした瞬間に“浮ついてるんじゃないよ”という先程の郭様の厳しいご忠告が蘇ってはっとなったりしていた。そんなふうに色々忙しく思い巡らせている一馬は、胸の内が顔に出やすいタイプなため、ころころと表情を変えており、英士はそんな一馬の百面相を眺めながら、こいつは俺の言ったことをちゃんと理解しているんだろうか…、と一抹の不安を覚え、それでも“出来の悪い一人息子に手を煩わされて困ってます〜”なんて口では言いながらも本当は息子が可愛くて可愛くて仕方ない過保護な母親のような気持ちになっていた。
 とまあそんなことをしているうちにようやく結人が洗面所から戻って来た。
 結人が戻って来たことで少しは雰囲気が緩和されるかと一馬は大いに期待したのだが、結人の機嫌は相変わらず悪いままだったので、テーブルを支配する気まずさはさらにパワーアップし、ただただ重苦しい沈黙が流れていた。特に何の会話も無く、咀嚼と嚥下の音だけが虚しく響く。一馬はあまりの居心地の悪さに冷や汗すら出てくるほどで、ちっとも味わって食べることが出来ないような状態だった。早くこの地獄のような食事の一時が終わればいいという一心でハンバーガーとポテトを口の中に押し込み、それをコーラで流し込むようにして食べる。ただしなるべく音は立てないように気を付けた。途中でふと、この早食いを英士に注意されてしまったらどうしようと思ってはっとなったが、英士は一馬を見咎めることなく、相変わらず優雅な仕草で自分の食事に集中しているようだったのでほっとした。全てを食べ終えてから一馬は後悔することになる。一人だけ早く食事が済み、やることがなくなってしまったのだ。どうしようもなくて窓の外を眺めてみたり、紙ナプキンをいじくってみたりしていたのだが時間はなかなか流れない。暇を持て余してぼんやりしていると、ふと鋭い視線を感じて一馬は我に返る。英士が自分をじっと見ているのだ。心臓が凍り付くかと思った。なんとまた一馬は気付かぬうちにストローをガジガジとやっていたのだった。一馬が慌てて、もう空っぽの紙コップに突き刺さっているストローから口を離すと、英士はわざとらしくため息を吐いた。
 結人はただモグモグと無言で食べ続けていた。もう彼の表情には刺々しさは無かったが、結人が無表情で無言というのは空恐ろしいものがあった。
 そうこうしているうちに、西園寺監督をして“精神面が
やや弱い”と言わしめた真田一馬のデリケートな神経をものすごい勢いで磨り減らす嫌〜なムードの食事タイムが終わる。店を出たところで一馬の携帯電話が鳴り、その電話で彼は救われたような気持ちになった。
「俺、ちょっと今から用事があるから抜けるわ」
 嬉々としたような清々しいようなそんなキラキラした表情で一馬が言う。電話は例の同じクラスの彼女からだった。今からちょっと会えないかと誘われて、一馬は一もニも無くOKしたのだ。彼女に会える嬉しさと、この場から脱け出せる安心とで 一気に一馬の気持ちは明るくなっていた。
「もう夕方だよ? 今から会いに行くの?」
 咎めるように英士が言う。もう結構遅い時間だけどいいのか? というのは一馬自身がさっき彼女に訊いてみたことだ。彼女は「少しでもいいから会いたい、顔を見るだけでもいい」と、とっても健気に返答し、一馬の気持ちをこれでもかと言わんばかりに盛り上げてくれたので、今更英士がそんなふうに水を差そうとしたところで一馬にはなんの効果もない。一馬が「大丈夫だよ」とでも英士に言おうとしたところで、結人が「そんな言うほど遅くないじゃん。行って来い行って来い」と言ったので、一馬はぱっと顔を輝かせた。
「あーあ、もう、嬉しそうな顔しちゃって」
 からかうように結人が一馬の頭を小突くと、一馬は「やめろよ〜」と言いながらもやっぱり嬉しそうな表情である。英士は諦めたようにため息を一つ吐いた。
「じゃあ、またな!」
 一馬が手を上げ、背を向けようとしたところで英士が口を開く。
「一馬、彼女に『今日は泊まって行けばぁ?』なんて甘ったるい声で誘われても簡単にOKするんじゃないよ。最近の女子中学生はませてるからね。自分の貞操は自分で守らなきゃ駄目だ」
 そんな英士のありがたーいご忠告に一馬は思いきり絶句し、結人は思わず吹き出してしまった。

 人通りの少ない道に出た途端、さっきまでは結人の前をすたすたと歩いていた英士がペースを落として、結人の隣りに並ぶ。肩が触れ合うほど、喋ると息がかかるほど近く、英士は結人との距離を縮めて歩いた。
「二人きりになれたね」
 付け加えてそんな甘い言葉。耳元で囁かれてびくりとなった結人は、「寄るな〜」と言いながら英士の肩を押した。
「どうして? いいじゃない」
「嫌だ。うっとうしい」
「そんな照れなくても」
 英士はそう言って、結人の肩に自分の肩をぶつけながら密着してくる。人前では死ぬほど素っ気無いくせに二人きりになった途端にこれだ。結人は英士のそういうところをずるいと思いつつも、人前でいちゃつきたいだなんて針の先ほども思ってない(というか男同士で人前でベタベタするなんて出来てたまるか)ので、まあ別にいいのだがそれでも何か腑に落ちないような気がしてならなかった。
「お前ね、あんまり一馬に構ってんなよ」
「あはは、嫉妬してるんだ」
「はっ。バッッッッカじゃね〜の? バカ? お前バカ? 俺は一馬が不憫だから言ってるんですー」
「またまた。嫉妬してるんでしょ嫉妬。大丈夫だよ、心配しなくても」
「ああああもう! 人の話を聞けっ!」
 二人は肩をぶつけ合ったり足を踏み合ったり背中を叩き合ったりして、歩きながらじゃれ合った。こういう接触は、このくらいの年の男子同士には珍しくないことだ。それなのにどうしてある種の性的興奮を呼び起こされてしまうんだろう。結人はなんとも言えない気持ちになって、内側でもやもやと燻るものを振り切るようにして、乱暴に英士の肩に自分の肩をぶつけた。

「若菜?」
 突然後ろから聞き覚えのある声に呼びかけられて、結人は思わずびくりとなる。英士も一瞬、時が止まってしまった。
 振り返ると、結人と同じクラスの女子がいた。
「ああ、やっぱり若菜じゃん。こんなとこで会うなんて偶然だね〜」
 彼女は気軽な調子で結人の肩をポンと叩く。
「お、おう、偶然だな」
 結人は何か見られてはいけないものを見られてしまった気がして内心ひやひやしていたのだが、彼女は結人と英士の親しげなやり取りについては何ら不思議を感じたりせず「ああ仲が良いんだなあ」くらいにしか思っていなかった。英士は、突然現れた見ず知らずの女に、結人との親密な世界を一気に壊された気がして、いたく不満を感じていた。
「あ、どうも」
 女の子は軽く英士に頭を下げる。
「こんにちは」
 胸の中は“おいお前さっさと失せやがれ”という思いでいっぱいだったのだが、英士はこの上なく綺麗に微笑んで挨拶を返した。最高に素晴らしい外面である。英士の笑顔に女の子が思わず頬を染めたのを結人は見逃さなかった。
(…あーあ、騙されちゃってるよ)

「あの子、ヒメアルマジロに似てるね、顔が」
 結人と同じクラスの女子が去ってしまった後で、英士がふとそんなことを言った。
「ヒメアルマジロ!? ヒメアルマジロって!?」
「アルマジロだよ。ヒメアルマジロはね、アルゼンチンに住んでいるんだ。敵に会うと素早く穴を掘って潜ってそこに身を隠すんだよ」
「……」
 油断していると“ヒメ”という響きに騙されそうになるが、アルマジロはアルマジロだ。年頃の女の子を捕まえて(まあ陰で言ってるだけなのだが)アルマジロに顔が似ているとは何事だろう。失礼極まりない。
「今度家に来たときに動物図鑑見せてあげるよ」
 英士はにっこりと微笑みながら、結人の肩を何度か叩いた。そこは、さっき女の子が結人に親しげに触れた場所だった。
「ポケットに手を入れてても手袋してないと寒いでしょ」
 英士は唐突に結人のコートのポケットに手を入れ、そこから結人の手を強引に引っ張り出しながら言った。
「まあな」
 抵抗しようとしたが面倒だったので止めて、英士に掴まれた右手をそのままに結人は答える。今日は外出時に大いに急いでいたせいでうっかり手袋を履いてくるのを忘れてしまったのだった。
 英士は結人の右手を自分の頬に当てる。
「あったかい?」
「ぜーんぜん。お前のほっぺた冷たいよ」
 結人がそう答えると、英士は結人の手を自分の頬から離し、
「もう片方の手も出して」と言った。
 結人は大人しくポケットに入れていた左手を英士に差し出す。英士は結人の両手を取って口元に持って行き、はあ、と何度も息を吹きかけた。
「あたたまれ、あたたまれ」
 英士は息を吹く合間に呪文のように唱える。
 結人は頭の中がぼんやりしてくるのを感じた。本当に英士の魔法にかかってしまって、暖まって、限界を越えても体温が上がり続けて、そのうち体の内側から発火して、心身ともに燃え尽きて灰になってしまったらどうしよう。どこか甘ったるい恐怖を無理矢理断ち切るように、結人は英士の手をやや乱暴に振り払って逃れた。
 結人は泣きたい気持ちになっていた。英士に息を吹きかけられた手が痛いくらいに熱かった。この熱が体の中に入って来て内側を侵してしまう前になんとかしたいと思った。手首を切り落としてしまうイメージを頭の中で思い浮かべてみたりした。でも駄目だ。全然熱い。
 結人は放熱を望んで手を宙でぶんぶんと振った。
「優しくすんなよ」
「どうして?」
「きもちわるいから」

(本当はただ怖いだけなんだ)
(でも具体的に何が怖いのかと問われると困ってしまう)

「ひどい言い様だね」
 英士は綺麗に笑った。
 ひどいのはどっちだよ、結人は心の中だけでそう突っ込んだ。
「大体な、そういうことするくらいなら、てめーの履いてるその手袋を大人しく俺に貸しやがれってんだ!」
「嫌だね」
 速攻で拒否した英士の背中を結人はバッグで思いきり殴ってやった。
「痛いなあ。優しくするなって言ったのはお前だよ?」
「バーカ! アーホ! マヌケ! シネ! ハゲ!」
 幼稚園児並みの罵倒を英士に浴びせてから結人は走って行く。

「結人」

 呼び止められ、結人が振り返った瞬間に、英士は手袋を片方だけ脱いで投げて寄越してくる。
「…! おっと!」
 際どいところで結人は無事に手袋をキャッチした。
(これを俺に履けっていうのかよ。俺とお前で同じ手袋を片方ずつ使うっていうのか。恥ずかしくてそんなこと出来るかっ!)
 結人のそんな胸の内を読み取ったかのように、
「ポケットに手を入れてたらばれないよ」
 と英士が笑いながら言った。
 片方ずつ手袋を履いてなおかつ手袋を履いてない方の手同士を繋ごうとかアホなことを英士が言い出さなくて良かった、なんて結人は安心しつつも、でも本当はほんの少しだけ残念だったりもした。


 翌日結人が学校に行って教室に入ると、昨日偶然会った女子が、待ってましたとばかりに結人の側に駆け寄って来た。
「ねえねえ、昨日一緒に居た人、彼女とかいるのかな?」
 おーおーいきなりそう来るかよ。結人は苦笑してしまう。まさか奴は他でもない自分と付き合ってるんですよ、なんて言えるわけもなく。結人は適当に「まあ、いるんじゃねーの?」なんて答えて曖昧に流した。
「あの人かっこいいよね〜」
 彼女はうっとりとした様子で英士のことを思い出しているようだった。どうして一回会っただけでこんなふうに好意を持てるんだろうな。顔が好みっていうのはそんなにも重要なことなのか。そうか。でもまあそうだ。結人はそんなことを思いながら、ヒメアルマジロって一体どんなんだろう、なんて見たこともない生き物について色々想像しながら遠く南アメリカに思いを馳せてみたりするのだった。








お(=^o^=)し(=^-^=)ま(=^O^=)い(=^-^)/~~☆



なんか見にくくてアレなんですがこのような生き物のようですよ。

Dec.10,2001

 

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