何もかも、思い通りになる気がしてた









ソ ー ダ 水







気が違うかと思うほど暑い夏でした。

 今年のセミはよく鳴く。



「俺、一馬のことが好きなんだ」

 英士の声、蝉の声に混じる、幻聴みたい、夏の幻聴、鼓膜、揺らぐ。

 聞き返そうかと思った。でも聞き返すのが怖かった。だから聞き返さなかった。そもそも聞き返す必要なんかなかった。ちゃんと聞こえていたのだから。聞き返そうかなという気持ちが起きたのは単に、幻聴であってほしいとか願ってしまったから。でもこれは幻聴なんかじゃない。分かってる。蝉がうるさい。怖い、気持ち悪い、背筋が寒くなった。英士の顔があまりに深刻だったから。オイオイオイとか心の中でツッコミ入れたり。こいつほんとに目ぇ細いなとか思ったり。今朝何を食べたのか思い出せなかったり。もう8月後半だけどちっとも夏休みの宿題をやってなかったり。
 何なのこの人、とか真面目に思ってみた。福田も石黒も市井も脱退すべきじゃなかった。何故俺が気に入ってる奴ばっかりやめちゃうんだろう。ガモウの漫画はやめさせるべきじゃなかった。ジャンプの魅力半減じゃないか。

 もしかしたら、世の中には、自分の思い通りにならないことが結構あるんじゃないかって、
 気付きつつある、
 今、
 この、
 瞬間。

 英士はこんなこと、俺に言うべきじゃなかった。
 俺はどう反応すればよいのだ。どう反応すればよいのだ。反応すればよいのだ。すればよいのだ。よいのだ。のだ。だ。だ。ダ(パンプ)。
 あ、くるってる。(あつさのせいで)(脳がやられた)

「ふーん」
て、俺は反応した。
「ふーん」て。



・・・
 ちょうどその日の夜、一馬から電話があって、一馬は、
「俺、結人のことが好きなんだ」
 と、言った。
 唖然。
 昼間の英士の言葉を思い出す。英士の台詞の『一馬』のとこが『結人』に変わってるだけじゃないか。
 唖然。
 ちょっと待て。なんなんだ、これは。これは、なんなんだ? まるで申し合わせたようなアレじゃないか。

 一馬の言葉に、
「ふーん」
 て、俺は反応した。
「ふーん」て。


 足元が、回る。
 俺達の今までは何だったのか。長い間つるんでた男同士、そんな間柄で、恋だの愛だの、それはネタなのか? まじなのか? 本気かこいつら。素なのかこいつら。なんで今更そんな方向に話がいくのだ。一体なんなんだ。二人で俺を担ごうって魂胆か。そうだったらいいのに。そうであってくれ。でもまじだったな、英士の顔、一馬の声、奴らの様子、本気だった。迫真の演技てゆうか、あれは素だな。
 やばい。隔離しろ。
 切れてる。
 切れてるぞ。
 ど、っか確、実に切、れておられ、る。夏の、せ、いか。今、年はか、なり酷、暑だ、からか。暑、さのせいでやられ、たか。あ、なん、か読点の付、け方が混乱し、てきてい、るぞ。混、乱。こ、んらん。


 英士が一馬のこと好きかもっていうのは、なんとなく、なんとなく気付いてた。だって英士って、なあ、ほんと、一馬一馬一馬ってそればっかりだからなあ。まあだからいいんだけど。でもやっぱ真面目な顔してそういうこと俺に言われても困るんだけど。だってそんなん、ちょっと引くし。なんか怖いし。あんまりそういうの、知りたくなかった。知りたくなかったな。なんで俺に言おうと思ったんだろう。引かれるとか思わなかったのかな。一馬に言えないから俺に言ったのかな。誰かに聞いてもらいたかったのかな。仲良い友達だから、英士の苦しみとか色々分かってやりたいのは山々だ。でも、どうしようかな、そういうの、どう分かってやったらいいんだろう。だってもう相当心が寒くなっちゃってるし。あーごめん。まじごめん。まあ英士は英士として(や、どうでもいいってわけでなくて)、問題なのは一馬かな。まさかなあ、好きとかなあ、そんなん言われるとはなあ、思ってもみなかった。そんな、なあ、俺にどうしろと。どうしろと? なんなんだろう、ほんとに、なんなんだ、怖い三人組じゃないか。ボーイズラブトリオ! ウワこわ! ウワめっちゃこわ!



・・・・・・
 一馬はかなり前に全部宿題終わらしたんだって。こいつ鈍くさいとこもあるけど、基本的にはちゃんとやるべきことはさっさと終わらしてしまうきちんとしたタイプなので、8月28日現在、夏休みと抱き合わせの宿題という苦難に頭を悩ませることなどない爽快な身であります真田一馬。俺は宿題ほとんどやってない。ここまでやってないといっそ爽快な気分であります若菜結人。
 こないだの電話で、一馬は俺に告白したけど、そんなの俺の聞き間違いだったんじゃないかと思ってしまうくらい、一馬の態度は以前と変わりなかった。むしろこっちの方が変に意識しちゃってるくらいだ。
 以前と変わりない一馬。でもあれは聞き間違いなんかじゃない。以前と変わりなく振る舞うなら、あの告白には一体何の意味が? 今一馬は一体どんな気持ちで? ところで英士とはどうなってんの? 英士は今頃何してるんだろう。色々考えてると、頭がガンガンしてきた。暑い。太陽が一日で一番高い場所にある時間。なんでこんな時間に外を出歩いているんだろう。

 宿題手伝ってやろっか、と一馬が言った。

「もういいよ間に合わねーもん」「まだ頑張れば間に合うって」「や、間に合わないって」「間に合うよ」「もーどうでもいい」「俺手伝うし」「悪いからいい」「悪くないよ」

 悪い。悪い。悪いって。手伝わなくていいって。手伝ってほしくない。手伝われるの嫌だ。手伝うな。

「俺、結人の役に立ちたい」

 なんじゃこいつは。

「ほんのちょっとでいいから、結人の役に立てたらなァ」

 あ、また言ってやがる。


役立たず
役立たず(反復)
役立たず!!(強調)
立たない、役に(倒置)
役立つか? 否、立たない(反語)
切れない鋏のような役立たず(直喩)
君は切れない鋏だな(隠喩)
まあ、役立つとはいえないね(緩叙)
死ぬほど役に立たない(誇張)
焼く(+δ+)タ※狽ス☆ZOO∽(*∀*)〒彡木亥火暴(電波)
YAKUTATAZU(ローマ字)
ヤクタタズ(カタカナでコジャレ路線)
やくたたず(ひらがなでカワイ子路線)
役に立つわけないでしょ(英士)
(※列叙法※)
(病気)


 アンタ病気ですか。
 アンタいつの間にそうゆうキャラになったんですか。
(アンタとは真田一馬を指すのか。若菜結人を指すのか。それとも意表を突いて郭英士を指すのか。)(もう訳が分からない)(もう訳が分か)(も)

 病気か。


 太陽、病気みたいに白かった。

 あ、気持ち悪い。すごい、気持ち悪い。暑い。すごい、暑い。
 太陽、病気みたいに、白くて、あ、すごい、気持ち悪い暑い。

「ははははは」
 乾いた笑い
「ははははははははは」
 …渇く

「気持ち悪いよお前」
 一馬に言ってみた。
(しかしお前とは真田一馬を指すのか、それとも、
「…ゆーと?」
 人の名前をひらがなで呼ぶな。
 「う」を「ー」言うな。
 むかつく。
 むかつく。
 死ぬほどむかつく。

「ああ気持ち悪い」

 吐きそうだ。
 昼に食べた冷やし中華を戻してしまいそうだ。酸っぱいものが込み上げる。暑い。なんて暑さだ。口の中が酸っぱい。麺が喉から出てくる。蝉がうるさい。麺が鼻からも出てきそう。小学生集団がやかましい。麺が目からも出てきそう。ホラー漫画か。あ、一人こけた、小学生集団の一人が。あ、泣いてる、泣いてるよ、あの子、ははは、情けね、ていうか友達に放っておかれてるし、ははは、あ、なんかあいつアホそうな髪型してる、きっとアレだ、いじめられっこキャラに違いねー、そうゆうキャラなんだ、そういうスタンスなんだ、強く生きろよ小学生、君の未来は明るい(といいネ・超他人事)、ハハハハハ、お、ま〜だ泣いてる、
 まだ、
 泣いて、

 ふと目の前の一馬に目線を戻すと、泣きそうだった。
 あ、泣くか? 泣く気かこいつ。気持ち悪い言われて傷付いたのか。そうか。
「俺、結人なんか嫌いだ」
 はいはい。
「どう考えても性格悪いし」
 へえへえ。
「一緒にいるとヒヤヒヤする」
 そうかそうか。
「いつ傷付けられるのか分からなくてヒヤヒヤして心臓に悪い」
 なるほどなるほど。
「嫌いなんだ」
「別にいいよ、嫌いで。全然結構」
 本音だった。

「でも、ま、俺は結構好きよ、一馬のこと。色々おもろいし。ガキっぽく見えるけど案外しっかりしてるとことか好き。たまにむかつくこともあるけど、気に入ってるよ、一馬のこと、好きかな、うん、結構好きだ。というかかなり好き。今後とも仲良くしたいことこの上なし」
 本音だった。

 一馬、泣かなかった。

 でも、

 一馬、俯いた。
 もう、すごく、俯いた。
 一馬の黒い長めの前髪、が、熱い地面に描かれた一馬の影、を、濃くする。
 ポツン
 地面の一点が黒くなる。
 あ、一馬、ついに泣いた?
 と、思ったら、
 ポツン
 俺の頬に水滴。
 あ、雨か、そっか、雨。
 とか、思ってるうちに、
 どんどん、雨は激しくなって、
 夕立。なんてタイミング。これじゃまるで、ご都合主義全開のドラマじゃないか。
「走るぞ!」
 一馬の手を取る。えーと、どっか、雨宿り出来る場所を探さねば。一馬は素直に手を引っ張られて俺について来る。どうよ、こういうシチュエーション、まじドラマぽくない? ははは。

 すごい雨。もう、雨宿りとかどうでもよくなってくるくらい。だってもうびしょぬれだ。雷まで鳴ってやがるよ。すごい雨。前が見えない。走る、雨の中、泳ぐように。
何もかも、叶いそうな気がしてた。泳いで、泳げば、素晴らしき岸に、辿り着けると思ってた。でも今は、そんな気しない。そんな岸ない。このまま溺れて沈んで、そんで、ゲームオーバーだ。
 ピカ、空、光る、また雷鳴。

立ち止まって振り返って抱き締めてチューでも一発かましてやろっかとか思った。

 それかなりドラマっぽいじゃん。かっこいーかなーとか。いっぺんやってみてーとか。思った。思っただけ。もしも一馬が女の子で、さらに一馬が友達じゃなかったら、やってたかもしれない。でもそんな『もしも』は無くて。一馬は立派に男の子で、友達で、だからそんなドラマぽい展開に至るわけなく。例えば一馬の方にはめっちゃその気があっても、でも無理。俺無理。もうかなり無理。一馬、お前の手を引いていることには、一切の恋愛感情は含まれず、一切の性的意味合いは無く、もう、そういうのは断固無いんだ、一馬、でも、風邪ひいちゃいけないから、俺も一馬も風邪ひいちゃいけないから、俺冷たい思いしたくないし、まあお前にも冷たい思いさせたくないし、雨宿りしなくちゃ、お前は鈍くさいとこあるから、俺が雨宿り出来る場所を探してやんなくちゃ、って、なあ、そういうの、そこには愛がある、でも、なんていうかアレっぽい愛じゃなくて、分かるかな、分かってもらえるかな、一馬アホだから分かんないかな、って、こんなことで悩ませるなよ、くだらない、面倒じゃん、悲しいよ、ちょっと泣きそう、や、泣かないけど、でも泣きそう。

でも、ま、俺は結構好きよ、一馬のこと

 まさか、まさかこんな言い方で、人の好意を、痛々しいくらいの感情を、揉み消さなきゃならないはめになるとは。それがこんなにも苦しいとは。踏みにじってしまった。踏みにじるような乱暴さなんか微塵も感じさせないやり方で踏みにじってしまった。もっと、もっと、他に術はなかったのか。こんな言い方でなく、もっと、もっと残酷でない言い方は、残酷でないやり方は、どこにあるのか。(それは永遠に辿り着けない素晴らしき岸の向こう側に静かに眠っているだから永遠に残酷でない術なんてものを知る術はない永遠に)

 身に染みる罪悪感と無力感。雨が骨まで沁みた。雨宿り出来るような場所が見つからない。チッと舌打ちする。口の中に生温い雨がどんどん入り込む。一馬の方を少しだけ振り向く。俯いたまんまだ。血液の温度が下がる。夏で良かったかもしれない。これが冬なら、雨の冷たさで多分死んでた。でも冬の方が良かったかもしれない。雨の冷たさで多分死ねたから。死ねない夏。どんなに地獄みたく雨が降っても死ねない。これは恵みの雨だ。笑ってる。木が道路がビルが雲がガードレールが芝生がコンビニの看板がコンビニの近くにある公園がコンビニの近くにある公園のベンチがコンビニの近くにある公園のベンチのすぐ側にあるゴミ箱がコンビニの近くにある公園のベンチのすぐ側にあるゴミ箱から半分ほど飛び出しかけているコーラの500mlペットボトルが笑ってる。笑うな、万物。笑ってんなよ。

 結局一馬は泣いていたのだろうか。分からないまま。雨のせいで。あまりにも酷い雨だった。泣くな、一馬。泣いてんなよ。
 でも、ま、俺は結構嫌いじゃないよ、雨って。雨宿り出来る場所が無くても平気。でも一馬はどうだろう。俺めっちゃ丈夫だからこんなことで風邪なんかひかない自信ある。けど一馬はなあ、どうかな、風邪ひいちゃうかもな。

 俺達はずっと手を繋いだままだった。俺達はずっと、
 ずっと、ずっと、
 何もかも、上手く、とても上手くいってる気がしてた。でもそんなのは幻想だった。ずっと夢見てた。
「俺、・・・のことが好きなんだ」
 英士の言葉と一馬の言葉で目が覚めた。夢の中は気持ち良かった。全能感? みたいなのがあったな。何でも思い通りになる気がしてた。でも現実は気持ち悪くて、思い通りになることなんか一つもなくて。



・・・
 突然降り出した雨は降り始めたときと同じような突然さでもって突然止んだ。真っ暗だった空がどんどん明るくなって雲間からギラギラした太陽が覗く。気味が悪いほど一気に晴れ上がる。さっきまでのどしゃぶりが夢のようだ。夢から突然覚めたみたい。でも夢を見てたわけじゃなかった。びしょぬれだし。
 気持ち悪い。
 髪が服が体が何もかもが濡れてて気持ち悪い。
 暑い。
 暑いぞ。
 蝉の声が聞こえてくる。
 雨上がり、
 蒸し暑い。
 雨が降る前より一段と熱気が増してるようだ。
 頭痛がする。
 気分が悪い。
 くらくらする。
 暑い。
 気分が悪い。

 気分が、

 夏が暑過ぎて気が違いました、なんてそんなの嘘で、俺、気味悪いほど冷静でした。気、味悪、いほ、ど。気温上昇、太陽上昇、体温上昇、俺下降、俺下落、俺デフレ、下へ、下へ、どんどん冷めてく、夏どんどん激しさ増す、俺どんどん勢い失せる、太陽燃える、俺燃え尽きる、照り返しきつい、俺日陰にいても死にそう、ほんとは基本的に夏は結構好きだった、でも今年の夏は、

足元、回る。よく回る。地面がグンニャリしている。暑さのせいでコンクリート溶けてんのか。グニャ。グニャグニャ。視界も回る。よく回るなァ。。ァなる回くよ。る回も界視。ャニグャニグ。ャニグ。かのんてけ溶トーリクンコでいせのさ暑。るいてしリャニングが面地。る回くよ。る回、元足

、は夏の年今

 思わず座り込んでしまった。
「結人?大丈夫?」
 心配そうな一馬の声。一馬は座り込んで俺の様子を窺う。
「気持ち悪い」
「大丈夫かよ…」
「何か飲みたい」
「分かった。何か飲むもん買ってくる」
「ん」
 ほんとうは、そんな親切さえ受け取りたくなかった。その親切心の裏には何があるんだろうとか思うと苦しくて。でもほんとは普通に心配してくれてるだけだと思う。苦しかった。苦しがってる自分が苦しかった。申し訳無くて。申し訳無いなんて思ってる自分が、とても苦しい。
「お茶? それともポカリとか?」
「炭酸がいい」
「コーラ?」
「や、色のついてないやつがいい」
「あ、サイダーか」
「うん」
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
 自販機、求めて、一馬、走る、俺のために、サイダー買うために、走る、爽快な走り、びしょぬれになってるとは思えないほどの爽やかさ、走る、後ろ姿、
 眩しくて目眩がした。

 一馬がいない間に逃げてしまおうかとか思った。
 サイダーを買って戻って来た一馬は、俺がいきなりいなくなってたら、ものすごく狼狽するんだろうな。
 逃げてしまおうかと思った。思っただけだった。立ち上がる気力すらなかった。
 地面に腰を落として、体育座り、腕に顔を埋める。蝉がうるさい。ジリジリと体が焦げてく。濡れた体が焦げていく。死ぬかもしれない。死なないけど。逃げられない。
 一馬、帰って来なければいいのに。自販機が無ければいい。どこにも無ければいい。自販機を探してどこまでも走って行っちゃえばいい。どっか行っちゃえ。きっと英士が探してくれるよ。一馬、一馬、と泣きながら、必死で英士が探してくれるよ。俺は探さない。だって、立ち上がる気力がないんだ。一馬、早く帰って来て。矛盾する思考。帰って来るな。帰って来て。一馬は帰って来なくていいんだけど、サイダーは飲みたい。嘘だ。サイダーなんかいらない。もういいよ。俺のために何かしようとしないでくれ。頑張らないでくれ。帰って来い。帰って来て、帰って来て、どうか、どうか、

「お待たせ」
 一馬の声がして、顔を上げた。逆光でよく顔が見えない。一馬の右手に握られてるサイダーの缶に付いた水滴が、太陽の光を受けてキラキラ光る。肩で息してる一馬。
「早かったな」
 嘘だった。早いとか、遅いとか、そういうの、全然分からなかった。無限にも瞬間にも感じられるような息苦しい時間の中で一馬を待ってた。サンキュ、短く礼の言葉を口にして、缶を受け取る。きっと一馬は、お礼を言われて嬉しそうな顔してるに違いなくて、俺はそれを確認するのが怖くて、一馬の顔を全然見れなかった。ちょっと素っ気無かったかな。傷付けちゃったかな。

 プルタブ引き上げる。炭酸のはじける軽快な音、プシュ。豪快に飲む。喉痺れる。脳まで痺れる。咽そう。鼻から出そう。涙が出そう。目を閉じた。ごくごく飲む。脳も喉も食道も胃も痛い。身心が冷たい電流で浄化されてく感じ。息もつかずに飲み続ける。瞼の裏がチカチカ点滅する。ふと昔のことを思い出す。小学校んとき。三人でサイダー飲み競争みたいなのをした気がするな。俺が一番だった。絶対一番になるって分かってた。予想通り一番だった。全能感。何もかも思い通りになる気がしてた。飲み終えた。顔を空と平行にして缶を思いきり逆さにして最後の一滴まで飲み干す。痺れる。指の先まで痺れる。恍惚。まさか、炭酸で酔えるとは。なんと器用な。なんと安上がりな、恍惚、










目を閉じて 声を殺して 息を止めて 心臓を止めて 止めて 痺れくる 脳の芯まで侵されゆくよな、



思い通りになることなんて何もない痛いくらい思い知ったセミのよく鳴く夏だった目が開けられなかった







Feb.17,2001

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