キスしたい。舐めたり舐められたりしたい。したい。トリップトリップ・お前とやれたら死んでもいい。彼女と別れたんだ、と言うと、一馬は酷く驚いて、えっなんで!と訊いてきた。まあ、ね?性格の、不一致?ってやつ?と答えると、なんだよそれー!ちゃんと説明しろよー、と一馬は不貞腐れた。ちゃんと説明しろって言われても。別れた理由を説明するのに性格の不一致以外の言葉を見付けることが出来ず、俺はしばし黙り込んだ。一馬はその沈黙をどう解釈し違えたのか、問い詰めるような口調から一転して慰め励ます口調に変わり、あーえーと、あの、元気、出せよ?なんてぎこちなく言ってきた。特に悲しいわけじゃなかったのに一粒だけ涙が零れた。どうして涙が出たんだろう。きっと一馬の同情を引きたいがゆえ。どんな辛いめにあったって、誰かに同情されるのなんてまっぴらだ。自尊心が傷付く。でもたった一人、本当に好きな人にだけはそれを許したい。同情されること、することを。許したいし許されたい。本当に好きな人にだけは。いや、違う、そうじゃない、逆だ。この人になら同情されても構わない、そう思うことが出来るなら、それはその人のことを本当に好きっていうことだ。なんて。何度も馬鹿みたく繰り返したけど“本当に好き”ってどういうこと?な、な、な、慰めてやろうか?一馬が突然そんなことを言い出した。うんじゃあ慰めて、と答えると、一馬は恐る恐る近付いてくる。そしてキス。一馬のキスは想像通りぎこちなく、想像以上に俺を熱くさせた。幾度かの軽いキスの後、ぎゅっと抱き締められた。どれくらいそうしていただろう。一馬の鼓動が笑っちゃうくらい伝わってきて笑っちゃいそうだった。しばらくして一馬がゆっくり体を離す。あまりの物足りなさにうっかり舌打ちしてしまうところだった。それで終わり?嘲るように言ってやると、一馬は真っ赤になって怒った。俺は一馬にすごい勢いで押し倒されてしまう。ほんと扱いやすい奴だ。下にはちゃんとカーペットが敷いてあるから上から押さえ付けられても体はそんなに痛くならないけれど、出来ればこういうことはベッドでしたかった。でもまあいいか。さっきよりも深く口付けられた。やっぱりぎこちない。でも興奮する。これから始まることを想像するだけで目眩がした。何度も何度も口付け合って、服の上から体を探り合った。あまりに一馬の手付きが拙くて、それはそれで楽しいのだけれどなんとなく不満で、位置が逆の方がスムーズに事が進むと思ったから、一馬の腕をぐいっと引っ張って倒して一馬の体を組み敷いた。唐突に体勢を逆転させられた一馬はあからさまにうろたえていた。もうお前は何もしなくていいからそのまま寝転がってろ、悪いようにはしないから、と上から見下ろしながら言ってやると、一馬は俺の髪の毛をぎゅーっと引っ張った。何すんだよボケ!ハゲたらどーしてくれんだよ!俺の髪の毛は柔らかくて細いから色々やばいんだよ!ギャーギャー文句を言う俺の髪を掴んで離さないまま、一馬は俺の頭を引き寄せて、キス。お前なんかハゲちゃえ、唇を離す瞬間に一馬が言った。そう言ったときの一馬の声は小さく低く掠れていて、頭痛がするほど甘ったるかった。ハゲちゃえ、とか言われたのに興奮してしまった。頭の芯が焼け付いてビリビリ痛むようなそんな感じ。一馬の腕を押さえ付けてキスをする。キスの合間に苦しげに息を継ぐ、一馬のその様子にまた頭痛。お互いの服を忙しなく剥き合って、素肌をまさぐり合った。行くところまで行ってしまうように思えたけどそうはならなかった。互いのものを扱き合ってあっけなく到達してそこまでで終わり。一馬はしばらくうっとりとした様子だったがその後急に清々しい表情になってさっさと後始末をしてさっさと服を着てしまった。え、ここまででおしまいですか?なんて思ってちょっと唖然としていると、お前も早く服着れば…?とどこか呆れたような声で一馬に言われた。なんだそれは。なんだか一気に虚しくなって自分が馬鹿みたいに思えた。一馬の忠告をありがたく聞き入れてとっとと服を着た。一馬はいつのまにか人のベッドに移動して横たわり、あーなんか腹減ったー餃子が食いたい餃子餃子!外側がパリパリしててそれで思いっきりニンニクが効いてるやつ!なんてことを言っている。ムードも何もあったもんじゃない。さっきのアレはなんだったんだろう。それとも照れ隠しで言っているんだろうか。でもそれにしてはあまりにも一馬はギョーザギョーザとしつこい。俺は少しも餃子は食べたくなかったけど、じゃ今からラーメン屋行くか?と言ってみた。すると一馬は途端に顔を輝かせ、行く!と言ってベッドから下りた。今のところ一馬の中では明らかに、セックス<餃子、こうなんだろうな。そういうわけで俺達は早速ラーメン屋に向かう。一馬はとても嬉しそうで、そんなにも餃子を食べれるのが嬉しいのか、そんなにも、そんなにもか、と俺はなんだか不満を感じてしまった。今この瞬間一馬の中では、結人<餃子、明らかにこうだろう。餃子に負けた。まあそれはそれで面白いからいいような気がする。いや、しない。一馬はラーメンと餃子を、俺はラーメンとチャーハンを頼んだ。餃子を一つやるからチャーハンをちょっと食べさせてくれ、と一馬が言ったので、食べてもいいぜ、でも俺餃子はいらねー、と答える。えっマジで?珍しいな、と言って一馬は目を丸くした。どういう意味だそれは。それじゃあまるで俺がめちゃくちゃ食い意地はってるみたいじゃねーか、と文句を言うと、実際食い意地はってるじゃん、と返してきて一馬は俺のチャーハンを一口食べた。むかつく。早々に食べ終えて席を立つ。今日は俺の奢りな、と言って一馬が伝票を手に取った。一馬なりに気を遣ってくれてるんだろう。嬉しくて、でもちょっとむかついてちょっと悲しくて、でもやっぱり嬉しかった。店を出ると外の空気の冷たさに体が震えた。でも腹が膨れて気分が良かったのでそこまで寒さは気にならない。て、て、て、手を繋いでやろうか?一馬が突然そんなことを言い出した。うんじゃあ繋いで、と答えると、一馬は俺の手をぎゅっと握り締めた。手を繋いで歩いた。幸せで、気を抜くと頬が緩んでしまう。彼女と別れたばかりだというのに同性の友人と手を繋いで(それ以上のこともやってしまったけれど)浮かれていていいのだろうか。いいわけない。通りすがりの小学校低学年くらいの男子が、うわー男同士で手ぇ繋いでる!ホモ〜!ホモだ〜!と俺達に向かって叫んだ。うわっ。頭痛がする。そっと手を離し、その小学生は無視しようと思った。ところが。なんと一馬は、うるせー!黙れ!と怒鳴りながら小学生の方に走って行くではないか。おいおいおい。頭痛がする。バカ!いい加減にしろ一馬!一馬に向かって叫ぶと、一馬はむっとした表情で戻って来た。何考えてるんだお前は〜恥ずかしい奴…、呆れながら言うと、一馬は立ち止まる。恥ずかしい?と一馬は訊いた。俺は恥ずかしくない、と一馬は続けて言って、俺にいきなりキスしてきた。おい。ここは、往来だぞ。幸運にも周りに人はいなかったが。さっきの小学生もとっとと逃げてしまった後だったけれど、もしあいつがこの光景を見ていたら大騒ぎをしたことだろう。そう思うとやっぱり頭痛がするし、でもなんだか可笑しくて笑ってしまいそうだった。一馬のキスは当然のようにニンニク臭かった。俺は恥ずかしいよ、唇が離れてからそう答えると、一馬は頬を膨らませた。バカだ。こいつは本当にバカだ。でも可愛いと思ってしまった。バカだ。俺はバカだ。今、今すぐに、ここで、部屋での続きをやりたい。今今すぐにここで行くところまで行ってしまいたい。道路の真ん中、押し倒して服を剥いで体中隅から隅まで触って舐めてそして、。やりたいだけやったら後はもう。車に轢かれようが、あの小憎らしい小学生に土足で踏み付けられようが。お前とやれたら死んでもいい。おしまい。Dec.15,2001
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