喜悦する寝台、ギシギシ、すてき、ゆめみたい。




よろこびベッド



 なんだなんだ、お前は。嫉妬か。嫉妬してんのか。そうかそうか。かわいいやつめ。
 見るともなくテレビを見ながら、こないだ英士と二人で見た映画が何気に面白かったとかどうだとか俺が話してる途中、一馬が全然相槌とか打ってこないもんだから、なんだよこいつ寝てんじゃねえのか人が話してる時によ無礼者めが、とか思ってテレビから目を離して一馬の方を見ると。
 もう、すごいむくれてんの、一馬の奴。
 なんだこいつは。俺と英士が二人で出かけたことが気に食わねえのか。でも別に一馬を仲間外れにしたとかじゃないじゃん。一馬を誘わないで二人で出かけたわけじゃない。ちゃんと一馬だって誘った。でもその日一馬は家族でどっか行ってたんだろ。仕方ないじゃん。
 でも、一馬はむくれてる。
 いいけどさ。でもちょっとくらいは相槌打てよ。そんなんじゃ聞いてんのか聞いてないのか全然分かんない。もーほんと、こいつって子供なんだから。あからさまなんだから。誰かこいつをなんとかしてくれー。『うっとーしいから嫉妬なんかするな、バカ』とか言って怒らせてやろうかと思ったけど、やめやめ。さらにうっとーしーから。
 とまあ、なんだかんだいっても、こいつのこういう面倒臭いとこ、可愛くって仕方ないんだけど。そういう可愛い態度取られると、変な気起こしちゃうじゃん。どーすんだ。責任取れ。
 というわけで、責任を取ってもらうことにしました。
「よーし、決めた! 一馬。今すぐ服を脱げ。んで、ベッドに上がれ。または今すぐベッドに上がれ。んで、服を脱げ」
「な、な、なんだよ、それ! ていうか、ど、どっちにしろ一緒じゃん!」
 あからさまに慌てる一馬。どもってやがる。こいつほんとリアクションが派手だよなあ。大げさだよ。
「いいからいいから」
 急かすみたく俺が言うと、
「何がいいんだ、何が!」
 と一馬は口答えする。
 そうやって拒否の姿勢をとってる一馬だけど、もうちょっと押してやればすぐ、具体的に言うとこっちが服に手をかけてやりさえすれば、なんだかんだ言いながらも結局折れる。容易く折れる。『嫌だ』なんて口だけだ。そんなの分かってる。嫌だ嫌だなんて言いながら、こっちがもっと押してくれるの待ってんだよ、こいつは。お前ってずるいよなあ。お前って楽でいいよなあ。
 いつものパターンなら、さっさと押し倒すなりなんなりして積極的に仕掛けていく俺だけど、今日はちょっと試すような態度とってみたりな。あっちが動くのを待ってみたりして。
「早くしろよ。
 A.服脱いでベッド行く  B.ベッド行って服脱ぐ  C.今すぐ帰る
 以上の三択。どれか選べ、さっさと選べ、即選べ」
 そうやって、一馬の次の行動を待つ。
 …しかし。しかしながら。
 ノーリアクション。このやろ、どれも選びやがらない。
 分かってんだよ。ちゃんと分かってる。痛いくらいに分かってる。こいつは、俺がなんとかすんのを待ってんの。俺がどうこうしてやんのを待ってんの。全部俺任せ。受け身。だから、そういうのがアレだから、いつもいつもそんなふうだから、今回はこっちが待ってるっていうのにさ。
 ああ、もう、腹立つな〜。服くらい自分で脱げ! 幼児じゃねんだから。自分のことは自分で決めろ。いい加減にしろ。バカ。バーカ! お前、本っ気でムカつく。あーもー赤くなってうつむいてんな。モジモジしてんな。恥ずかしい。気持ち悪い。なんだお前は。少女漫画の主人公か。いい気なもんだぜ。くそー。ああ、でも、なんか、赤くなってるこいつとか見てても、変な気になってくんだよなあ。なんだ俺は。少女漫画の主人公の相手役の男か。くそ。
 乗せられてんなあ。俺ってば、いい具合に乗せられてる。チッ、と、思いきり舌打ちしてから、俺は一馬に手を伸ばした。あー、乗せられてる。俺って、一馬に乗せられてんだよ。一馬に乗ってるっていうか乗せられてるんです。(うまいこという)
 一馬って、無意識に媚びるようなとこがあるんだよな、たまに。まあ親しい相手に限ってだけど。『媚びる』なんてさ、一見一馬には縁の無い言葉に思えるだろ? だって、一馬は真っ直ぐで、馬鹿で、変に相手に取り入るようなこととかはしない(ていうか出来ないのか?)。でも、なんかさー、絶対媚びてんだよ、こいつは。たまに。もう、絶対。無意識なのが余計タチわりい。とにかくたまに媚びてんの。かわい子ぶっちゃったりしてんの。色気付きやがって。一馬のくせに生意気だぞ(ジャイアン口調)。んで、英士は一馬の媚びにうっかり騙されたりして、あっさり一馬に参ったりしてんのな。うわー。バカじゃねえの。英士ってすげえバカ。俺は賢明だから、騙されたりなんかしない。騙されてない。けど。けどなあ。一馬に参ってるっぽい。うわー。バカじゃねえの。俺ってすげえバカ。しっかり騙されてるよ、それ。うわ、気分わる! 俺ぜんぜん賢明じゃないじゃん。

「いて、いてて…、いってー!! いてえ! へたくそ! お前、もっと、優しく、できねーのか! …バカ!」
 なんか、俺の下で一馬がギャーギャー言ってるんですけど。『へたくそ』って言った? 今。まじで?このやろ。なんだ、お前のその態度は。もっと媚びてみせろよ、一馬。
「もっと可愛いらしい言い方ができねーのか、てめえは。『ねえ、もっと優しくして? 結人くん…★』とかさあ、言い方ってもんがあるだろうが。」
「……ねえ、一回死んでくれば? 結人くん…★」
 ほ〜、そーきやがったか。なんだよ、こいつ、すげえ余裕あるじゃん。なんだよ、お前は。一馬のくせに。かなり生意気!
 でもやっぱかわいいよな。そう、媚びてても媚びてなくてもズルしてもしなくても、かわいいもんはかわいいや。
 よーし、一馬。もっとお前を俺のもんにしてやる! とことん俺様のものに!
 お前のものは俺のもの俺のものは俺のもの状態にしてやる! (やっぱジャイアン)
 ついでに、も〜二度と『へたくそ』なんて口が裂けても言えないようにしてやる!
 どーだ、まいったか!
 喜べ一馬。よろこべよろこべよろこびまくれ。






    ●

ベッドのスプリングがよろこびできしむ。

ついでに、俺も、一馬もきしむ。ベッドの上。

●    







終わり



Oct.23,2000



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