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 んじゃあ、またね、と、英士の家の前。
 いつもわざわざお見送りご苦労さん、なんて言葉には出来ないけどね、ありがたく思っているんだ。
 またね、と言ったのに、英士から、またね、が返って来なくて、ちょっと戸惑う俺、滞る空気、離れがたい雰囲気、なんだ、どうしよ、どうすればいいのだ、こら、英士、何か言え。
「一馬、キスしてもいい?」
 素晴らしいタイミング!英士、お前ってなんてかっこいいんだ!(アホ)
 でも、俺は、ウン、なんて素直に頷けないわけで。
「何言ってんだよ、ここ外だぜ、誰かに見られたらどーすんだよ、馬鹿じゃねーの?」
 ここまで言うことはなかったのかもしれない。でも言っちゃったから仕方ない。
「そっか、残念」
 えええええ。もう一押ししろよ…!
「あ、一馬、不満そうな顔だね。今『もう一押ししろ』とか思っただろ?」
 …人の心を読むな!
「な、な、何言ってんだよ、そんなこと思ってねーよ!」
 どもってしまった(駄目だ〜)。ムキになってしまった(駄目だ〜)。
「一馬っていつもそうだよね」
 呆れたような英士の表情。
 えっ、いつもそうって?何が?
「お前はいつも待ってるばかりだよ」
 そ、そうかな。でもそうかもしれない。
「何とか言えば?」
 何とかって?何を言えばいいんだろう。ていうか、何、英士、そのめちゃくちゃ呆れたような様子は。え、俺に呆れてるの?え、どうしよう。何か言わなきゃ。でも何を言ったらいいんだろう。
 英士はため息を一つ。
 そんな、ため息なんて。どうしよう。ていうか、なんでこんなことになってしまったのか。ああ、そうだ、『キスしてもいい?』って聞かれて、ほんとはしてほしかったけど断ってしまったのがいけなかったんだ。でもそういうことは以前にも何回かあったじゃないか。なんで英士は今こんなに不機嫌そうなんだろう。どうしよう。謝るべきなのか?でも謝るのはなんかおかしい。ていうかなんで謝らないといけないんだ。どうしよう。時間が戻ればいいのに。そう、時間が戻れば。『キスしてもいい?』って英士が聞いたところまで時間よ戻ってくれ。はいはい無理無理無理過ぎる。
「一馬は俺に好きだと言わせたいんだろう?」
 え。
「自分からは何もしないくせにね」
 う。
「結局さ、一馬は俺より優位に立ちたいんだよ」
 !
 それは違う、
と言う前に手が出てた。
 パチン、乾いた音、ああ英士のほっぺをぶっちゃった。
 英士は叩かれた頬に手を置いて、またため息。
「ちょっといきなり色々言い過ぎちゃったね、ごめんね。
一馬、俺はね、一馬が俺より優位に立とうと思っててもそれはそれで全然いいんだ」
 いいならゆうな。ていうか、俺はそんなこと思ってない!
「一馬が俺より優位に立ったとしてもそれでいい。そんなことは問題じゃないんだ。そんなことはどうでもいいんだ。俺はお前の前に平伏してもいい」
 ひれふす!
「好きなんだ、一馬」
 なんだよ、愛の告白かよ、なんなんだ、もう。
「好きだよ」
 ニ回もゆうな。
 俺もだよ、
って言えたらいいけど、そんなこと言えっこなくて。どうしたらいいか分かんなくて、どうしようもなくて、英士の耳をギュ―って引っ張った。
「痛い、痛いよ一馬」

 ポロリ、涙が一粒零れた。
 なんで、ここで、俺が泣かねばならんのだ。

「一馬…」
 英士は唖然としてる。
「見るな馬鹿」
 手の甲でゴシゴシ目の下を拭った。
 見るな、見るな見るな見るな。


「…お前らなあ…」
 ふと、ひどく馴染みのある声が背後から聞こえてきた。
 結人!?
「痴話ゲンカ?そういうことは屋内でやったほうがいいよ?ホモカップルめ、場をわきまえろ」








 そら涙も止まるわ。
(涙どころか心臓が止まりそうになりました★)


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おしまい!



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