「結人が泣いてるとこなんてはじめて見た」「ああ。俺も」英士の嘘つき。英士は、はじめてじゃないだろ。なんとなく、そんな気がした。近ごろ色んなこと分かってきだしたよ。英士の言ってることが、本当か嘘か、とか。ちょっとずつ、色んなことが分かるようになってきた。でも、きっと、英士は、俺が色んなことを分かっていくことを望んでない。そういうことも、分かってきた。俺は分かってない振りをする。分かってない振りの仕方も分かってきたし。色んなこと、どんどん分かっていくんだね。『大人になるって悲しいね』なんて、そんな感傷的な台詞はくだらないけれど、英士好みな気がしたので、言ってみた。「大人になるって悲しいね」俺の言葉に、英士はちょっとだけ笑った。英士、お前、俺のこと好きなんだろ?分かってるんだぜ、って、そう言ったら、英士はどんな反応するんだろ。さっきみたいに、余裕ぶって笑える?俺は3組の鈴木さんのことが好きで、廊下ですれ違う度ドキドキしたりして、ほんとドキドキして、恥ずかしくて、ドキドキしてる自分自身が恥ずかしくて、こんな恥ずかしいことは誰にも秘密で、二人にも秘密で、だから英士も結人も知らない話。色んなことが分かっていって、秘密が増えていって、そんで、大人になってく。勿論分からないことだっていっぱいあるよ。なんで昨夜、結人は泣いていたのかな。それは結人の秘密?分からないよ。なんで英士は俺に嘘をつくのかな。それはどんな秘密を守るため?英士は結人の涙の理由を知ってるのかな?それは英士と結人の秘密?分からない。分からないこともあっていい。分からないことがあってもいいってことが分かってきた。英士、大人になるって悲しいこと?そんなことないよね。大人になるってすてきなこと。とても、とてもすてきなことだよね。












Dec.28,2000

 

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