あなたとならばどこへでも行けるからあなたとどこへでも行きたいわ

Utopia 私とあなたしか居ない、そんな場所が理想郷だというならば理想郷など輪廻の果てでも求めるものか



「俺、お見合いすることになったんだ」
 ほら、と言いながら郭が見合い写真を真田に差し出した。
「…あみ〜ゴに似てる…」
「うん、あみ〜ゴ本人だから」
「えっ! まじで!?」
「うん」
「いいなァ、英士…」
 真田は指をくわえて郭に羨望の眼差しを送った。



「…もういいよ、くだらない…」
 寝転んで雑誌を読みながら、郭の話を聞くともなく聞いていた真田がため息を吐いた。
「まだ続きがあるのに」
 途中で話の腰を折られた郭が苦く笑った。郭は昨夜見た夢の話を真田に話している最中だった。
「もういい」
 背を向けようとする真田から雑誌を取り上げて、隣りに横たわる。
「聞いてよ」
 郭の言葉に真田はまたため息を吐いて、諦めたように軽く頷いた。


「でも俺お見合いなんかしたくないんだ」
 真田の手から見合い写真を取って、郭がうんざりした様子で言った。
「なんで? だってあみ〜ゴだよ?」
 勿体無いよ、と責める調子を含んで真田が問う。
「だって俺、お前のことが好きだし」
「えっ、そ、そうなのか?」
 途端に赤くなった真田に、郭は大きく頷いた。
「うん、そうなんだ。だからお見合いなんてしたくない。でも親の決めたことだから…」
「じゃあ駆け落ちしようか…」
 真田の突然の提案に郭は驚いた。
「駆け落ち?」
「そう。死ぬまでに一回やってみたかったんだ実は」
「ロマンチックだなあ」
「うん」
「どっか南の方の、無人島とかいいかもね」
(そこには誰もいないの。何もないの。サッカーボールでさえも。ないの)
「無人島…、不便そう」
「大丈夫、俺が魚を釣るから。一馬の分まで。だから二人とも生きていけるよ」
「ああ魚食いたくなってきた…」
「それでね、時間は充分に有り余ってるから、木を切って碁盤を作って、石を磨いて碁石を作って、二人で囲碁をしよう。どう? 囲碁がしたくなってきたでしょ?」
「あんまり」
「でも楽しそうだろ?」
「うん楽しそう」
 善は急げ。郭と真田は翌日の早朝二人で駆け落ちすることに決めた。


「ロマンチックだろ?」
 微笑みかけてくる郭に、真田はまたもやため息を吐かずにはいられなかった。
「でもまだ夢には続きがあってね」
「まだあんのかよ…」
 さも嫌そうな顔をした真田に、郭は少しだけ笑って話を先に進めた。
「俺達は、確かに駆け落ちの約束をしたんだよ。でも、翌朝、いつまで待っても一馬は現れなかった」
 なんとなく天井を見ながら話を聞いていた真田が、ふと郭の方に顔を向けた。郭はぼんやりと天井を見ていた。郭の横顔はひどく無表情で、真田は言いようのない不安を感じる。
「ずっとずっと待ってたんだ。でも、来なかった。どうしようもなくてその場にへたりこんだよ。
 それで夢はおしまい」
「…そう」
「悲しい夢だろ?」
 郭が真田の方を向いて言うと、真田は顔を背け、吐き捨てるように、
「でも夢の話じゃないか。くだらない」
 そう言いながらも、真田はひどく傷付いた表情をしていた。自分が今にも泣きそうな顔をしていることに真田は気付かず、顔を背けていたので郭も真田の表情には気付かずに、

「くだらないかな」
 自分自身に問い掛けるように郭が呟いた。

「くだらないよ」

 真田が涙を流したことを郭は知らない。







 一人じゃどこへも行けないの







どうすれば何の不安も迷いも無く、側に居ることが出来るのかな




Jun.5,2001


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