あー、夏が、終わってしまう。…夏よ、行かないで〜!
 と、若菜さまが願ってみても。
 九月。みんなが宿題提出してる様を、若菜さまはぼんやりと眺めてる。
「ぜんぜん宿題してこないなんて、すごい度胸だよね。ソンケーしちゃう」
 とは、隣席の女子の弁。
「若菜さまって呼んでもいいぞ」
「アンタってばかねー、ほんとに」
「バカな僕に宿題写さしてくださいよー」
「いいよ」(あっさり)
「うっそ」
「つきあってくれたらね」
 あ。
 若菜さま、止まる。
(あー、これは、割と本気だな。あー、どうしよう。どうしようっつっても、どうしようもないんだけども)
 冗談めかして言った女子だったが、どこか声が上擦っていて、唇も震えていた。彼女はほんとに以前から若菜のことが好きだったのです。
「ワハハ、じゃー写さしてくれなくていいや。他当たるわ」
「ははは、きつー」
(笑ってるや。でも、傷付いてる。きついよなあ。あーでも、俺だって、きついわ、こんなん。なんていうか…)
 ていうか宿題出しちゃったんだから写せないよね、うん。
「ほれ、飴やるから」
 若菜はズボンのぽけっとから飴取り出して、女子にあげます。いらないよー、とか言いつつ、女子は受け取って、もったいないからすぐには食べらんないなー、とか思ってる。
 放課後、若菜は屋上へ。
(いっそ、つきあってしまうというのもアリなのかも。
 …いや、まあ、ないんだけど。ないな。あー、ない)
 そこへ、同じクラスの男子(若菜の友人)がやってきます。
「おー、いたいた」
「おー、いますよー」
「担任が探してたけど」
「『若菜くんは死にました』って言っといて」
「わはははは」
 そんでしばらく雑談してるんですが、
「○○(若菜の隣席の女子)って、若菜のこと好きなんじゃん?」
「は〜? なんだよそりゃ。いきなり」
「お前、意外に鈍いな。それともわざと? あいつ結構あからさまだろ」
「分かった、お前、○○に気があるんだな、うん」
 冗談のつもりで言ったのに、クラスメイトの男は、「うん」とあっさり肯定。
「えっ、まじで!?」
「んー、まあ」
「まあ、って」
「とりあえず、任せた」
「えっ(笑) 任されても困る。俺、好きな奴いるもん。…別の学校に」
「そうなの?」
「そーなの」
「ふーん…」
「うん」
「どんな子?」
「どんな? どんなと言われても」
「かわいい?」
「かわいい? う〜ん、アレはかわいいのか? いやー、どうかな、あー、あれよ、あれ、かわいくないところがかわいいっていう部類の…」
「ふーん」
「まあ、そういうわけなんで…」
「うん」
「…飴いる?」
「いらない」
「あーそうですか」
「ガムやるよ」
 ガムを一枚渡して、クラスメイトは去っていく。
(いらない…)
 若菜は手の上に乗っかってるガムをぼんやりと眺めた後、ズボンのポケットに入れる。
(そーいやこないだ、ガムずーっとくちゃくちゃやりながら歩いてたら、「いつまでガム食べてんだよ。もう味無いだろ。早く捨てろよ。ていうかお前包み紙捨てただろ。なんで捨てちゃうんだよ。ふつう噛み終わったガムを包むためにとっとくだろ。あーもー長々とくちゃくちゃやってんな。なんか感じわるい」とか神経質そうに眉を顰めてあいつが言った。なんつーうざい奴だ! と心から思ってたら。あいつ、ティッシュ出してきて、「これに包んで捨てろ」って。う、うざすぎる。あーもーこいつは…、と思って、そんで、お前のそーゆーとこ好きよ、大好きよ、って思った)
 若菜さま、カッペに思いを馳せる。
「あー、顔が見たい、今すぐに」
 顔を、見るだけでいい。
 と、思うだけで、会いに行こうとも電話しようともせず、若菜は自分ちに帰って、テレビ見たりしてる。そしたら真田が訪ねて来る。
「…うわー」
「(むかー)何、その反応…。俺、帰る」
「わー、ばか、違う!」
「(むかー!)バカ!?」
「違う違う、そうでなくて」
「なんだよ」
「うわーっていうのは、『うわー、すごーい、とってもうれしい〜☆彡』の、『うわー』なんだって。ちょうど俺、一馬にすっごい会いたかったんだよ」
「へえ…?」(ものすごく疑わしい目)
「まじでまじで」
「めちゃめちゃリラックスしてテレビ見てたんじゃん」
「のように見えて、頭ん中は一馬のことでいっぱいなのだよ」
「はいはい、
 って、お前、なに制服脱ぎっぱなしにしてんだよ」
 ベッドの上に投げ出されているシャツとズボンを目にして、真田は怒る。
「あらら」
「シャツ洗えよ。そんでズボンはハンガーに吊るせ」
 真田はとりあえず、汚いものでも摘むような手付きでズボンを摘み、そのへんにあるハンガーに吊るそうとする。
「あっ、ポケットの中にガム入ってる。お前、お菓子とか入れっぱなしにしてんなよなー」
「今日の帰りに貰ったばっかだから大丈夫大丈夫。ていうかなんだお前は俺の妻か」
 真田は「バーカ!」とか言いながら、若菜にガムを投げ付ける。ガムは若菜の額にベシッと当たる。
「う〜ん、ナイスコントロール」(額を押さえつつ)
「お前が鈍くさいだけだろ」
「お前にだけは言われたくない(割と素)」
「な、なに素で言ってんだよ!(怒)(怒)(怒)」
 そんでまあ仲良く言い合って、一緒にテレビ見たりとかゲームしたりとかする。
「ていうか、そういやお前なんで来たんだっけ? なんか用事あったんじゃねーの?」
 そこで真田はむっとした様子になって、「なんか用事がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」と返す。そう言ったときの真田、ちょっと頬が赤くなってて、「なに、こいつ! かわいい! ありえない! (かわいいとか思ってる自分が)」などと若菜さまはヒートアップ。
(ここで冗談めかして抱き付いちゃったりする勇気とかあればな〜)
 とか思って、はあ、とため息を吐く若菜さま。意外なほどに臆病なのです。でも、臆病になっちゃったのには理由があって、それは以前真田にチューたら思いきり嫌がられたからなのでした。真田の誕生日に二人は両思いになるんですけど、それから数日後、若菜は真田んちにお泊り。チューくらいはしたいよなー、あわよくばそれより先も…、ってそれは無理だな、うん、とか色々若菜さまは思ってました。でも色々思うだけで、どうすることもできずに夜も遅くなり、若菜はまだテレビ見てたんだけど、真田はもう眠いと言い出す。
「じゃー寝るか」
「いや、結人は見たいだけテレビ見てていいよ。俺、気にしないから」
 テレビや電気が点いてると眠れないタイプのくせに、真田はそんなことを言う。眠そうにしてる真田がなんだかとても愛らしく見えてきて、若菜は衝動的に真田に口付けてしまう。真田唖然。その後激怒です。若菜さま、真夜中に家を追い出されそうになりました。ひとしきり怒った後、真田は無言になって、布団に潜り込む。まさかこんなに怒るとは思わなかったので、若菜さまはとっても傷付きました。
「…そんなに嫌だったのかよ」
「……」(無言)
「つーか、キスくらいでさー」
 真田はガバッと布団から起き上がって、ものすごい目をして若菜を見る。
「あー、悪い。今のは失言でした。ごめん、取り消す」
 真田はまた布団に潜り込む。
「ごめん」
 弱々しい声が布団の中から聞こえてきて、若菜は、その謝罪の言葉をどう受け止めればいいのかと思い、ちょっと悩む。
(どういう「ごめん」だ、そりゃ。怒ってごめん? ならいいけどさ。
 受け入れられなくて、ごめん? だったら、どうすりゃいーんだ)
 若菜さま、ガクー。以来、若菜さまは割と慎重に真田に接します。
 で、話は現在に戻って。テレビ見てる途中、ふと視線を感じて横向くと、真田がずっとこっちを見てる。
「なに見惚れてんだよ」
「誰がお前に見惚れるかっ、バカ」
「じゃーなんだよ。鼻毛でも出てた? 眉毛でも繋がってた?」
「…ガム貰ったのって、女子から?」
「は?」
「ズボンのポケットの中入ってたやつ! 貰ったって言ってただろ」
「あー、あれな。クラスの男から」
「ふーん…」(疑わしい目)
「なんだよ、その眼差しは。ていうかたとえ女から貰ってたとしてもだなー、それがなんだっつーんだよ」
「やっぱ女から貰ったんだ」
「ちがう! 『たとえ』っつったろ」
「結人って、変に鈍いとこあるから不安だよ」
(お、お前にだけは言われたくね〜!)
 口に出したら絶対怒られるので心の叫び。
「不安なのはこっちだアホ。チューくらいさせろ」
「そういうとこが鈍いって言ってんだろ。お前はムードがどうとかそういうことを考えないのか」
「むーど!」
「な、なんだよ…」
「えーとつまり『むーど』とかいうやつがあればオッケーなわけだな?」
「…まあ、そういうことになるな」
「えっ!! そーなの!?」(割と素直に肯定されてビックリ!)
 若菜さまの負けー 


 

 

2004年06月5日の日記より。

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