僕はひとつ大人になって、一足先にひとつ大人になった君が隣りにいる。
来年の今日も、一緒にいられますように。
・・・もうひとつの10月20日・・・ 立進大学生編では、進藤ちゃんが19歳の誕生日に、タテが二人の愛の素を出て行ってしまうことになってる。もし出て行かなかったら、どんな10月20日になったんだろうという話。SS形式なのがめんどくさいのでメモ書きで。 進藤ちゃんが朝早くに目が覚めると、隣りにいるタテがじっと進藤ちゃんを見つめていた。進藤ちゃんはびっくりして、いつから起きてたんだよ、と問う。寝起きで声は掠れている。そんな声もセクシーだねとタテは思いながら、 「おはよう進藤ちゃん、19歳のお誕生日おめでとう。そして私はずっと前から起きていて進藤ちゃんを見つめ続けていたのですよ…!」 「ずっと前からって。それは怖いよ。でもありがとう」 昨夜二人は一緒のベッドで眠ったのだ。なんもしてないけど。残暑もすっかり遠のき、秋がきて、暑くもなく寒くもない涼しく過ごしやすい季候はすぐに去ってしまう。朝夕はほんとに寒くなってきて、寒がりのタテはもうカイロを買いだめしてる。それで昨夜、「進藤ちゃん、寒いから一緒に寝ていい? いいよね? 寝るよ。おやすみなさい」と一方的に言って進藤ちゃんの隣りで眠ったのだった。こういうのは久々で、進藤ちゃんはびっくりしたし、同時にうれしくて、でもその反面、不吉に思えた。今年の梅雨時に二人は気持ちを打ち明けあって、七夕に結ばれ、それから同棲し始め、甘い日々を送っていたものの、夏が過ぎるのと時を同じくして、二人の仲にかげりが出てきた。つまらないことで言い争いになる。振り返れば、ケンカしている時期はまだよかった。今ではもうケンカすらしない。分かりやすく無視されるならまだいい。進藤ちゃんには、タテがいつもどおり振る舞っているようで、どこか心ここにあらずに見えた。でもふとしたきっかけで、急にまた親密で濃密な空気になって盛り上がったり、その翌日にはまるでただのルームメイトのようになったり。タテの気分に振り回されているように感じる。進藤ちゃんは疲れてしまって、しんどいなって思うんだけど、でもいつかもっと落ち着いて暮らせる日がくると信じてる。でもそんな日は来ないのかもしれないと思ってしまった出来事があり、それは先月の終わり、くだらないケンカがあって、進藤ちゃんは、タテの嫌味に思わずかっとなってタテの頬を叩いてしまった。そしたらタテは笑っていて、進藤ちゃんはぞっとして、それでタテは進藤ちゃんを組み敷いちゃう。でもタテはすっごく苦しそうで。だから進藤ちゃんもすごく苦しい。翌日タテは謝るし、一応二人は仲直り、みたいな感じになるんだけど、以来タテはますますよそよそしくなった、というか態度はごく普通なんだけど、なんか変だなって進藤ちゃんは感じるようになる。でも「なんか変」の正体が掴めず、進藤ちゃんの心は波立つ。そういう流れがあった上での、「一緒に寝ていい?」だったから、進藤ちゃんは喜びつつもなんとなく不安を抱いた。何かよくないことの予兆のようにも思えた。でもそうじゃなかった。タテは進藤ちゃんを真っ直ぐに見つめて、とろけるように笑ってる。 「今日は学校はお休み。なので、進藤ちゃんについて学校行っちゃう! もう今日はずっと進藤ちゃんと一緒にいようと思って」 「休みってどういうこと? 休講?」 「まあ休みっていうか休むっていうか、でも大丈夫! 事前に根回ししてるから☆」 そんなわけで、進藤ちゃんと一緒に大学行くタテ。進藤ちゃんが午前中にとってた講義は、すごく人数が多いから、タテ一人混じってたって分かんない。教室の後ろのほうで、一緒に講義を聞きます。午後は、たまたま休講で、どこで昼ごはん食べようかってなって。学食でもいいけど、進藤ちゃんが行きたいお店にしようってタテは言う。 「じゃあラーメンにする」 「ラーメンでいいの? オッシャレーなフレンチとかでもよくってよ」 「もりもりラーメンのラーメンにする」 「えっ(笑)」 もりもりラーメン、というのはタテのバイト先のラーメン屋さん。店長が森さんという名前なんだ。どうでもいい話なんだけど、タテは店長にすごい気に入られてて、「お前、うちで修行を積んで、将来『のりのりラーメン』という店名のラーメン屋をやれ」とか言われてる。ほんとにどうでもよい。それで結局、もりもりラーメンに行って、二人でたらふく食べる。タテが店長に、進藤ちゃんが誕生日なんだと伝えたら、店長がいっぱいごちそうしてくれた。大盛ラーメンにチャーシューが19枚乗ってた。 「あ〜お腹いっぱ〜い! 進藤ちゃん、これからどうする? どっか行きたいとこある? 進藤ちゃんが行きたいとこ行こうよ」 進藤ちゃんは、タテの大学行きたいって。それで、タテが通ってた幼稚園とか小学校とか中学校とか、転校前の高校も行きたいって言うんだ。 「えっ、そんなとこ行っても面白くないよ」 「だってお前も俺の学校ついて来たじゃん」 「それは単に一緒にいたかったからでして」 「別に、面白くなくていいんだ。ただ、立松がどんな学校行ってたのかなって。外からちょっと見るだけでいいんだけど」 「大学はともかく…、幼稚園とかはいいんでない? それよか映画とか観に行きません? 何かもう、メロメロに甘いやつを 「さ、時間がもったいないから行こ!」 「ええ〜〜」 そんなわけで、学校巡りするから。大学では、田中を探してみたりして。でも見つからなかったんだけど。それで、タテは幼稚園から高校までエスカレーターの学校行ってたので、それらの校舎を遠目に見ただけで、学校巡りはすぐ終わっちゃう。 「お前、幼稚園受験とかしたってこと? すごいな。どんなの、幼稚園受験て」 「そんなの知らないよ。そして、もし私とあなたの間に子どもができたりしたら、せめて幼稚園と小学校くらいは受験のないとこに行かせませんか?」 「立松、まだ時間あるし映画でも観に行く?」 「いいけどさあ。進藤ちゃん、スルーしまくるね?」 「うん」(笑顔!) そんで二人で映画観る。タテは恋愛もの希望だったんだけど、進藤ちゃんが怖いやつを観たがったからホラーを観ます。寒い時期の日没は早い。映画が終わって外に出ると、すっかり日が暮れていた。 「怖かったね〜」 「うん」 「死んだはずのクラスメイトが、お母さんに乗り移ってるって分かった瞬間! ヒーって思ったら暗転して。もーやだ! って思ったもん」 「そうそう」 「でも隣りに進藤ちゃんがいるから、怖くても大丈夫だったよ〜」 進藤ちゃんは、ははは、と笑って。笑うんかい、とタテは突っ込む。 「夕飯、何が食べたい? 俺が腕を振るうよ!」 タテは別に特に料理が得意ってわけじゃないんだけど、器用なんでそれなりにできる。 「昼にいっぱいごちそうになったから、重いものはちょっと。うどんとか?」 「うどんて。昼も麺だったじゃない」 「そうだけど」 「そして腕の振るいどころが分からない。麺から打つべき?」 「市販のものでお願いします」 そんなわけで、帰ってから、タテが愛を込めてゆでたうどん(つゆは市販じゃなくて作ったよ)を二人でずるずるいただく。食べ終わった頃にインターホンが鳴って、宅急便が届く。タテが大きな四角い箱を受け取って、部屋に持ってきた。 「改めて、お誕生日おめでとう!」 包みを開けると、大きなバースデーケーキが。ちゃんと「しんどうちゃん おめでとう」ってプレートも付いてる。そこで、進藤ちゃんの携帯がブブブって震えて、進藤ちゃんはそれに気付かなかったんだけど、タテが気付いて、きっとお誕生日おめでとうメールだから見たほうがいいよって。進藤ちゃんは別に後でいいって言ったんだけど、タテが、ちゃんとありがとうって返事したほうがいいよって言うから、それじゃあってことで見る。そしたら案の定おめでとうメールで、麻子からで、返信もすぐするんだけど、その隙に、タテがクッションの下から何か小さなものを取り出してズボンのポケットに入れるのを視界の端に捉えた。紙切れみたいなものだった。そういや、ケーキの包みを開けたのはタテだったんだけど、よく考えたら、普通包みって俺に開けさせてくれるもんだよな、って進藤ちゃんは思う。つまりタテは、包みの中に入ってたカードか手紙かを抜き取って、クッションの下に入れておいて、隙を見てそれをポケットに仕舞ったんじゃないかって。進藤ちゃんって変に鋭いんだ。何隠したの、って聞きたかったけど、今はとりあえず聞かないことにした。ケーキに19本のキャンドルを灯して、部屋を暗くする。フーッて、一息では消せないから、何回かフーッてして。最後に1本だけ残って、それを吹き消すのが惜しかった。暗闇で、といっても、街の光や月光が窓から射し込んでいるから完全な暗闇ではないけど、それでも、ほの暗い中、小さなキャンドルの頼りない炎を頼りに見るタテが、妙に儚くて、進藤ちゃんは少し気後れしてしまう。 「消さないの? 消えるまで待つの?」 「消すよ」 フーッ、で、炎はあっけなく消えてしまう。部屋の灯りを点けて、ケーキを食べ、食べ切れなかったぶんは冷蔵庫に保存した。その後、二人ともなんとなく無言になって、テレビを点けるのもなんか違う気がするし、お風呂はもう少し後でもいい気がするし、どちらともなく、ちょっと近所を散歩しよっか、てなる。昼間は過ごしやすい気温なんだけど、夜は結構寒くて、タテは冬のコートを着て行こうとしてる。そのとき、進藤ちゃんは聞くんだ。 「何か、隠してる?」 「何か隠してる、とは?」 タテは、手を止めるでもなくさっとコートを着てから、進藤ちゃんを振り向く。 「ポケットの中。俺がメールしてるとき、ポケットの中に何か入れてた」 「そうなの? 俺、何か隠してた?」 「うん。見せて」 手を差し出す進藤ちゃん。タテはその手を見ながら、 「見ないほうがいいっていうか、見ても別に、面白くもなんともないものですから」 「うん、でも、気になるから。見せたくないなら、見せられないなら、見せなくてもいいよ」 「そういう言い方されちゃうと、見せるしかないじゃない」 タテは渋々それをポケットから取り出して、進藤ちゃんに渡す。 『お誕生日おめでとう! 一緒に過ごせないタテノリを許してネ!』 ポケットに捻じ込まれて少し皺が寄ったカードには、そう書かれていた。 「一緒に過ごせないっていうのはさ、ほんとは、今日ちょっと用事があって、それで一緒にいられないかもだったんだけど、用事がなくなったから 「…見なきゃよかった…」 「いやいやいや、進藤ちゃーん? あのー、散歩行くのやめとく?」 「いや、散歩は行くけど」 それで二人で、夜道を歩くんだ。月は、三日月と半月の間だった。 「ほんとはさ、今日、出て行こうとしてたんじゃないか?」 進藤ちゃんは、タテの顔を見ないで言った。 「なんで?」 何言ってんの? 何のこと? って返すとこじゃないか、ここは。なんで? ときたか。 「なんとなく」 「よりによって愛する人の誕生日に出て行くとか鬼じゃない?」 「誕生日を普通に祝っといてから出て行くのだって鬼だよ」 「ごもっとも。それにしたって進藤ちゃん、この寒がりなタテノリが、進藤ちゃん無しで冬を越えられるなんてお思いになる? この進藤ちゃん命なタテノリが、進藤ちゃん無しで生きていけるとお思い!?」 「うん」 「うん、てアンタ(笑)」 「だって、結局、みんな一人だから」 「あらま〜、進藤ちゃんみたいな万人に愛されてるようなお人がそんなこと言うと説得力ありますわ〜」 「でも俺は、立松と一緒にいたいよ」 「うん」 「俺もだよ、とか言えないの」 「俺もだよ、じゃ芸が無いじゃない。いい殺し文句で切り返したいんだけど、なかなか思いつかないもんだね」 「綺麗な言葉はいらないよ」 「そう?」 「側にいてくれたらそれでいいよ。だから、今日は側にいてくれてありがとう」 そこで、やっと進藤ちゃんは、タテの顔を見る。 「…うん」 側にいてくれたらそれでいいとか、側にいられればそれでいいとか、そんなの、それこそ安っぽい殺し文句で、無責任で、欺瞞と不審に満ちている。でも君が口にするなら、それはただの綺麗な言葉じゃない。きらきら輝いて、言葉の破片が、僕の胸に沁み込んで、僕を幸せにしたり、僕の胸に突き刺さって、僕を弱らせたりする。 「勝手にいなくなったりすんなよ」 「しませんしません」 「二回続けて言うのが怪しい…」 雲が月を隠して、二人の行き先を暗くする。でも、それでも、君がきらきらしてるから、僕は道に迷わずにすむね。 そういえば、と進藤ちゃんが言いかけて、やっぱいいや、とすぐ取り消す。 「何!? 気になるんですけど」 「…最近キスとかしてないなと思って」 「それ今頃気づいた?」 「いや、気づいてたけど」 「早く言ってよ」 「今言ったんだから褒めてほしいくらいなんだけど」 「ごもっとも〜。ではでは、それはお家に帰ってからのお楽しみってことで!」 早く帰らなくっちゃ〜、とタテはすっかり陽気に。 ってこんな終わり方かよ。 |
Oct.20,2012
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