あ、今、君の瞳に、一瞬、花びらみたいな蝶々が、見えた。流れ星のように、眼の中を、駆けていった。

気のふれた蜜蜂が、君の右目に恋をした。



ク レ オ メ


2005年02月13日の日記より。 田進というより田→進なメモ。
 昼休み、田中が生徒会室で何かしらの作業をしていたら、進藤ちゃんが現れる。手を止めて、「どうした?」と田中が問えば、進藤ちゃんはちょっと首を傾げて(この仕草に、田中は微妙にどきっとしたり微妙にむっとしたりする)、「立松来てないかなと思って…」と返す。田中はなんとなく憮然として「来てないぞ」とだけ答えて作業に戻る。進藤ちゃんはちょっと考えて、「えーと、俺、ここで昼食べてもいい?」と聞きます。
「えっ…」
「駄目かなあ。あ、邪魔しないし、零さないから」
「別に駄目というわけではないが…」
 そんでまあ進藤ちゃんは田中の斜め前あたりに座ってむっしゃむっしゃとお弁当食べ始めるんだけど、田中は進藤ちゃんのことがなんとなく気になってぜんぜん作業が手につかない。食べ終わった進藤ちゃんは、ごちそうさまでした、と小声で言って律儀に手を合わせるんだけど、その様子がなんとも微笑ましくて、田中は和む。しかし田中、「いや、いかんいかん」と思って首を振る。何が「いかんいかん」なのか分からないというか分かりたくないというか。
「おい、進藤、口の端にご飯粒が付いてるぞ…」
 田中に指摘され、進藤ちゃんは「あ、うん」と言って目を閉じて顔をちょっと前に出してきます。取ってもらえると思ったんですな。これはなんというかクセっていうか条件反射みたいなもんです。立松なら「進藤ちゃん、ほっぺにご飯粒付いてるよ!」とか言ってすぐ取ってくれるから。というかタテの場合ご飯粒が付いていなくとも(略)進藤ちゃんの態度に、田中は普通にびっくりします。
「…子どもじゃあるまいし、自分で取れるだろう。僕はお前の母親じゃないぞ」
 きつい言い方になってしまったのは、驚いてるせいだけじゃなくて照れもある。進藤ちゃんのあまりの無防備さに動揺する田中。
 田中の反応に、進藤ちゃんはすっごく気後れして慌てる。「ご、ご、ごめん、そ、そーだよな」とか言いながら全然見当違いのとこ触ってる。結局田中が「まったく…」とか呆れながら取ってあげるはめに。
「ありがと…」
「いや…」
 取ってあげた米粒をじっと見つめる田中。
(立松ならこれを食べるのか…? いや…、
 いやいやいや、それはさすがに…)
「ごめんな〜」(田中の指に付いた米粒をぱっと取る)
「あっ!!」(取られた! と思っちゃう)
「ん?」
「いや、別に…」
 この出来事をきっかけに、田中はなんとなく進藤ちゃんのことを目で追ってしまうようになる。なんか妙に眩しく見えてキュンとなったり、逆にちょっとしたことでむかついたり。高原さんちの犬(高原さんが拾ってきた。名前は剛二号といいます)と進藤ちゃんが戯れてる姿とか、めちゃめちゃ見惚れちゃうんです。そんで「犬同士で戯れてるみたいだな」とかぼそっと言っちゃう。そしたら進藤ちゃんが、「えっ? 俺、犬?」とか返してきて、「そうだ」って答えるんだけど、ちょっと驚いてる進藤ちゃんの目が猫みたいだったので、「やっぱ猫かもしれない。いや、でも犬のようでもあり…、ああ猫の目をした犬だ…」とか考えるんだけどそんなことを素で考えてる自分が恐ろしくもあり…。
 ある日の放課後、進藤ちゃんとタテは放課後教室に残って二人きりで勉強してたんですが、タテがちょっと席外してるとき(なんかちょっとした理由で職員室に行ったかなんか)にたまたま偶然田中がやってきます。進藤ちゃんはタテがなかなか戻って来ないのをいいことに机に突っ伏して寝てます。田中は「なんで僕はこんな忍び足で…」と己の行動を訝りつつもこっそり教室に入ってって忍び足で進藤ちゃんの席に近付いてってすぐ横に立つ。そんですっごいどきどきしながら進藤ちゃんの頭に手を置く。「自分は一体何をやってるんだろう」感最高潮なんですが、進藤ちゃんの髪の毛は予想よりもずっとふわっとさらっとしてて(私的には剛毛のほうが萌えるんですが、話のムード的にそれはどうかと思うのでここはひとつフワサラでお願いします)、なんかすっごい満たされてしまう。調子に乗って頭撫でてたら、
「人を犬みたいに…」
 机に突っ伏したままの進藤ちゃんから不満げな声が。
「うわっ!」(大声)
 慌てて手を除ける田中。
「(いきなり大声出すから)びっくりした…」
 びっくりしたのはこっちだ、と思う田中(自業自得です)心臓がばくばくいってる。
「すまなかった。ちょうどいい位置に頭があったものだから…、つい…」
 苦しい言い訳。
「犬みたいだから?」
 あ、上目遣い。寝起きだからか、いつも以上に目が潤んでて、いっそぞっとする。何か返そうとするも、苦しくない言い訳どころか、喉が渇いてちゃんとした声すら出てきそうにない。
「やーやー、なんかいいムードのとこおじゃましますよー」
 そしてほんとにちょうどいいとこで帰って来るタテノリさま。
「立松、遅い」
「立松…!」
 田中は立松の登場に一瞬ぎくっとなるんだけど、次の瞬間にはすごくほっとします。とりあえず進藤ちゃんと二人きりじゃなくなったことに安堵。
 なんかトイレ行きたくなってきた、とか言って、立松帰って来たばかりなのに席外しちゃう進藤ちゃん。何よそれーとふくれるタテ。再び不安な思いになる田中。
「花ちゃんに言っちゃうぞい」
 タテの口調は冗談みたいな調子なのに、目付きは怖くて、田中は怯む。言われて困るようなことなど一切ない! と胸張って言えるわけじゃないからつらい。
「これを言ったら誤解を招きかねないから本当は言いたくないのだが、」
 と前置きする田中に、タテは無言で先を促す。
「構いたくなるタイプではある」
 言葉に出しては言っていないが、もちろん進藤ちゃんのことを指しています。そもそも僕は犬猫には弱いほうなんだ…、と言い訳がましく付け足してみたりもした。
「『構いたくなるタイプである』ね。なるほどね」
 そのまま繰り返されると、実に恥ずかしい。田中は赤面し、タテはますます冷めた調子になる。
「なんつーか、結構失礼な言い分でございますわね」
「悪気は…」
「征服欲だね」
「庇護欲だ!」
「どうかな」
 まあどっちにしろ…、
 続く言葉は聞き取れなかった。聞き取れなくてよかった気もする。タテは口元だけでちょっと笑った。
(なぜ、ここで笑う)
 正直、心底怖いと思った。こんな男とはとても勝負できない。そもそも勝負なんて。自分は別に、進藤のことを好きとか、そういうわけでは、断じて、断じて…、

 断じて、とはね、胸張って言い切れるわけじゃないからつらい。



 
 気のふれた蜜蜂が、君の右目に恋をして、地に堕ちて、それで?
 それだけ。
 それだけのこと。





クレオメの花言葉は「あなたの容姿に酔う」「秘密のひととき」「思ったほど悪くない」「小さな愛」「風に舞う胡蝶」らしいですよ…(そうですか…

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