・・・美しき友情の物語(嘘)・・・

○・●・○ と も だ ち ○・●・○


 今度の土曜に三人で会うことになっていたのだけど、突然結人の都合が悪くなって(まあよくあることだ)、どうするか電話で一馬と話してたところだった。俺は、じゃあ二人でって言ったんだけど、一馬はまた別の日にしようって。うん、また別の日に三人で会えばいいと思うよ。でも、土曜は土曜で二人で会ってもいいじゃないか。だけど一馬は渋ってる。いきなり「その日は用がある」とか言い出したり。そんなわけないだろう。だって、ついさっき結人からキャンセルの電話が入るまでは三人で会うことになっていて、一馬だって行くと言っていたというのに。いつの間に用が? もっとマシな嘘はないのか。(まあ一馬には無理だろうけど)
 結人が来ないとつまらないから嫌なのか? 一馬は俺と二人で会うのは嫌なんだろうか。うわ…、それはちょっと…、きついものが…。俺、何か一馬の気に障るようなことでもしたのかな? それとも、俺って何気に一馬に嫌われてるんだろうか。いや…そんなはずは…、ない。(と思いたい)
 俺も俺で、素直に引き下がればいいものを、「なんで駄目なの?」と問い詰めてしまう。だって、理由が知りたいじゃないか。二人では会えない理由を。二人では会いたくない理由を。その理由を聞くことによって、ものすごいショックを受けてしまうかもしれないけど、それは怖いけど、でも気になる。
 とにかく土曜は会えない、と一馬は言う。それはどうして、と俺は訊く。
「嫌です」
「…なんで?」
「嫌だから嫌なんです」
「ていうか、なんで敬語なの?」
 しばらく一馬は黙り込み、数秒後、
「とっ…!」
「…と?」
「友達だよな!? 俺達って!」

      (間)

 ……何それ。

 結局土曜の約束は駄目になってしまった。なんだっていうんだ。
 でも、電話の後しばらく色々と思い巡らせていたら、大体の予想がついた。ちょっと考えたらすぐに分かりそうなことだ。一馬は多分(というか絶対)結人に何か変なことを吹き込まれたんだろう。どんなことを吹き込まれたかも予想がつく。『英士って一馬のことが好きなんだよ〜友達とかそういう意味じゃなくってね、あ、一馬、どういうことか分かんない? それはね…、』とかそんな内容のことなんだろうな。そう仮定すれば、一馬のあの態度にも『俺達って友達だよな』発言にも納得いく。…くそ。結人の奴…。(もう結人が原因だって決め付けてるし)
 俺の予想(予想といっても確信持ってたけど)は大当たり。結人に「お前、一馬に何か言っただろ。俺が一馬のことを好きだとかどうとかその手のこと」って訊いたら結人のやつ、いともあっさり「うん、言ったよ。一昨日くらいに」とか答えるし。『うん、言ったよ』じゃないよ、『うん、言ったよ』じゃ。なんてことをしてくれるんだ、お前ってやつは。なんのつもりだ。(なんのつもりでもないような気もするけどね。タチ悪…)
「なあ結人、首絞めてもいい?」
「? 自分の首を?」
「まさか。結人の首をだよ」
「はあ? 駄目に決まってんだろ。んなことしたら死んじゃうじゃん」
「だから死なない程度に」
「駄目だっての! わ、てめ、何手ぇ伸ばしてきてんだよ! 人殺し!」
「人殺しはお前だろ。お前は俺を破滅させたいのか?」
「バカだな。俺は厚意でもってだな、一馬にお前の気持ちを伝えてやろうと…」
「そのお前の余計な厚意のせいで、俺は一馬に色々拒絶されました」
「バカだな。なんで『友達だよな?』って聞かれた機会を逃すんだよ。そこで、『俺はそういう意味じゃなくて君のことが好きなんだ!』とか告白しないわけ?」
『君』はないだろ、『君』は。何者だよ。
「そんなことしたら破滅決定だろ。確実に絶対的に拒否される。絶交されるかもな」
「バカだな。お前、そんなん、告白した後無理矢理やっちゃえばこっちのもんだろ」
「無茶苦茶言うなよ」
「バカだな。恋なんてもんは、とかく無茶苦茶なもんなんだよ」
「無茶苦茶なのはお前だ」
「バカだな。お前は全く恋愛というものを分かってねえな」
「さっきから、人のことバカバカバカバカ言い過ぎ」
「だって英士ってばバカなんだもん」
「…そんな素で『バカなんだもん』とか言われても…」
「好きな人には好きって言わなきゃ駄目だよ」
「駄目ってことはないだろ」
「勿体無いじゃん」
「そういう問題かな」
「それに、一馬は言わなきゃ分かんないよ。バカだから」
「言っても分かってもらえないよ」
「そこまでバカじゃねーだろ、あのバカも」
「仮に分かってもらえても受け止めてもらえないよ」
「そんな先のことまで考えてるから身動き取れなくなんだよ、英士は。まず分かってもらえたらいいじゃん。自分の好意を好きな人に知ってもらいたくねえ? 確かに結果も大事だけどさ。まず、とりあえず、好きな人には好きって言いたくなるもんだろ。自分が相手をどんくらい好きか、どんなふうに好きか、分かってほしくなるだろ、やっぱ。まあ、その後のことはその後のことだよ。相手の出方次第。何もしないうちからどーこー言ったって何も出ないぜ?」
 軽い調子で、ごくもっともなことを結人が言った。確かに結人の言う通りだよな。結人の言葉は、強い力を持っている。聞いた瞬間は、「そんな無茶な」と思うし、ま、実際とんでもないこと言ってたりもするんだけど(※『告白した後、無理矢理やっちゃえばこっちのもん』等)、すごく説得力のあることも言うんだよね、結人って。しかもその説得力を感じる言葉には、論理的な根拠はない。なんだか知らないけど、強い説得力が、力がある。結人って存在自体がそういう感じだ。根拠無しの力っていうのは、相対的だけど圧倒的だ。そういう力には否応なく引き付けられる。
 なんか俄然、告白する気になってきた。

『善は急げ』ということわざに従って、翌日早速一馬に想いを伝えてみた。(余談だけど、『急いては事をし損ずる』ということわざもあるということには後で気付いた)
 俺が告白したら、きっと一馬はうろたえて混乱するだろう、と思っていたものだから、そうなった一馬にちゃんと説明出来るよう、頭の中で自分の気持ちを整理して文章化してた。で、一馬の反応を待ちながら、反応に対する反応のために身構えていたら、
「友達でいよう」
 一馬は凛とした態度でそう一言。動揺の欠片さえ見えない。真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。
 予想外の反応と、驚くほどに決然とした潔い一馬の表情に息が止まりそうだった。ぎゅうぎゅうに詰まってた頭の中が一気に真白になっていくのを感じた。言葉が出ない。口を開くことさえ出来ない。
 俺は深呼吸を一つして、ゆっくり、ことさらゆっくりと、丁寧に瞬きをする。
 瞬きをひとつ、ふたつ、みっつ、
 よっつ目の瞬きをしようとした時、
「ごめん」
 と、一馬が言った。謝らなくてもいいのに。
 一馬は結人から話を聞いて以来、色々考えたんだろうな。一馬のことだから、日常生活に差し支えるくらい真剣に考えて、悩んで、それでやっと今の言葉を口にしてるんだろう。今だって、一見凛としてるように見えるけど、きっとすごく胸を痛めてるに違いない。そういえば、一馬、少し目の下に隈ができてる? 寝不足かな。俺のせいかな。
 俺は実は、一馬に気になる子がいることを知っている。一馬の隣りのクラスの女の子。明るくて可愛くて元気のいい子。ソフト部所属。髪は肩くらいで少し茶色い。肌は少し日に焼けて健康そう。背は低い方。笑った顔が印象的。笑うと目が無くなっちゃう。一馬の好みを絵に描いたような可愛い女の子。一馬はその子とたまに一緒に帰ったりしてる。一馬は、あの子のことを友達だって言ってるけど、もうアレだな、たぶん、お互い好きになりかけてて、上手くいくのも時間の問題だろう。
「好きなんだ」
 こんなことを言ったら、余計一馬を困らせるって分かってるのに。一馬に好きな女の子がいるって知ってるのに。一馬は友達でいようって言ってるのに。再度告白してしまう。だって、もう、それしか言える言葉がない。他にどんな言葉も思い付かない。
 俺の言葉に、一馬の瞳がひどく揺れた。困ったような、悲しいような、深い動揺。
「英士…、俺は…」
 うつむく一馬。
「分かってるよ。無理なこと、分かってる。ただ、好きだって気持ちを伝えておきたかっただけ。分かってるんだ。だから、友達でいよう」
 俺が言うと、一馬は顔を上げた。曇りきった表情に少しだけ晴れ間が見えた。すごく思い詰めたような一馬の顔も見甲斐があるけど、やっぱり一馬は明るい表情の方がいいなと思う。まだ困惑したような顔してるけど。
「一馬さえ良ければ、一馬が、俺のこと気持ち悪くないのなら、これからも、どうか、友達で…」
「英士! そんな…!」
 たどたどしい調子で言葉を紡ぐ俺に、一馬が非難を込めた声を上げる。『一馬さえ良ければ』とか『俺のこと気持ち悪くないのなら』とか、そのあたりに引っ掛かりを感じたのだろう。まあ、自分で言ってても嫌な感じだなあとは思ったけどね。
「俺、英士のことすごく大事な友達だと思ってるから。今までも、これからも」
 うん。分かってる。
「だから、そういう言い方すんなよ」
 うん。
「ごめん」
 俺は小さく謝った。卑屈な言い方してごめん。困らせてごめん。悲しませてごめん。嫌な気持ちにさせてごめん。ごめんなんて言わせてしまってごめん。好きになってごめん。好きって言ってしまってごめん。ごめんね、一馬。
「…謝んなよ…」
 うん。ごめんって言ってしまってごめん。
 心の中で謝った。
 一馬がポロリと涙を零した。
 あ、泣いちゃった。泣かせちゃった、って言った方が正しいのかな? …泣きたいのはこっちなんだけど。
 人が泣いてる姿って往々にして惨めで鬱陶しいものだけど、一馬は違う。潔くて清いんだ。一馬の泣き顔は綺麗だな。慰めたいな。頭を撫でて、頬を伝う涙を拭って、肩を抱いて、優しい言葉をかけたい。でも、今の俺に、そういうことをする権利があるだろうか。権利がどうとか言うのも変な話だけど。でも、そういうことしてもいいのかどうか迷ってしまう。嫌がられたら辛いし。これ以上ダメージ受けると立ち直れなくなりそう。って、俺って自分のことばかりだな。あーあ。ああ、でも慰めたいな。だって、一馬が俺の目の前で泣いてるのに。なんで俺は何にもしないんだろう。
 そんなことを思ってるうちに、一馬は自分の涙を自分で拭って、涙を堪えて唇を噛み締めて、ちょっと顔を上向きにして、ズズっと鼻を啜った。
 一馬、鼻赤い。小学生みたいだな。
 ああ…俺やっぱりどう考えても一馬のことが好きなんだけど。
 でも友達でいよう。好きな人を困らせるのって辛いな。好きな人を泣かせてしまうのって痛いな。だから、一馬、今日までずっとそうだったように、明日からもずっと友達でいよう。












その後、
結人んちで、とりあえず結果報告です。

「悲しいお知らせがあります」
「やめて。悲しい話は聞きたくないわ」
「ふられてしまいました」
「うわ〜そりゃ悲しいね〜」
「結人にそそのかされてうっかり告白したらあっさりふられてしまいました」
「ニ回も言うなっての。ていうか、俺のせいみたいな言い方はよせ」
「一馬が友達でいようって言うから。そうすることにした」
「そっか」
「一馬ってば泣くんだよ。泣きたいのはこっちだってば」
「だよな」
「でも、俺、やっぱり一馬のこと好きなんだ」
「うん」
「でも。友達でいようと思う」
「うん」
 すごく素直に言葉が出てくる。それは結人の聞き方が良いおかげだ。結人に話を聞いてもらってるうちに、どんどん心の中が癒されていくような気がしてきた。こういう時、すごく思い知る。結人って、押し付けがましくない優しさを持ってて、頭が良くて、気が利く奴なんだって。結人が友達でほんとに良かった。
「英士ってば、かわいそ〜!」
 一通り俺が話し終えると、結人はちょっと笑いながら、俺の頭を乱暴にガシガシ撫でた。
「お前、この先きっと良いことあるよ。もう明日あたりからは良いこと目白押しだよ?」
「そうかな」
「そうだとも! だから…」
「だから?」
「失恋のショックで自殺したりしないように…」
「……お前、もしかして俺のことからかってる? 傷心の俺のことをからかってる? お前って悪魔?」
「なんだよ〜、俺は、英士のことを心配してだな〜」
「はいはい」
「あっ、そうだ。失恋パーティーしようか? 来週にでも」
「…しなくていい…。というか、なんだよそれは」
「『英士、失恋に負けずに頑張ってチョ★人生まだまだこれからじゃん! 強く生きろよ!』的な、英士激励の意を込めてのパーティー。泊りでさ〜。いつもより高価なお菓子買い込んで〜、あと酒も飲んで〜。あ、あとチーズフォンデュしてーなー」
「………」
「一馬も誘ってさ〜」
「えっ!? 一馬も誘うの!?」
 失恋パーティーなのに? ふった方も誘うのか? おいおい、結人、そりゃ無いでしょ。
 ああ、もう…、こんなんじゃギャグだ。
 ああ、でも…、チーズフォンデュには惹かれるな。









・終わり・
Nov.6,2000

 

しつこく続きもあります>>

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