舞踏会に間に合わなくても、あなたが見てくれなくても、
滑稽な曲に合わせ、真っ赤な靴で真摯に踊る。

2004年4月24日(土)

「すごく好きな絵本があったんだよね。ちっちゃい頃。何度も読んだし、何度も母親に読んでもらったよ。『あれ読んで』ってせがんで」
「うん」
「でも、ある日突然どうでもよくなっちゃってさ。別に理由は無いんだけども」
「うん」
「それで、ほっといて、そのうちどこ置いてるのか分かんなくなっちゃって」
「うん」
「でもそれでも『まあいっか』って。何の本だったかも思い出せないよ」
「うん」
「すごくすごく大事にしてる物が、ある日突然どうでもよくなっちゃうっていうの、進藤ちゃんは経験ない?」
「うーーーん」
「なんでなんだろうね。なんでいきなり理由も無く、興味とか愛着とか一気に失っちゃうんだろう」
「なんでかな」
「進藤ちゃん、ちゃんと俺の話聞いてます(笑)?」
「聞いてるよ(笑)」
「俺、こわいの」
「なにが」
「ある日突然、好きな人のこと、どうでもよくなっちゃったらどうしようって。目が覚めたら、突然だよ。いつかそんな悲しい朝が来たらどうしよう」
 ほんの冗談だったのだ。傷付けるつもりなど微塵もない。試すつもりもない。ちょっぴりあなたの気を引きたかっただけ。他愛無い。こどもじみてる。
「それは、仕方ないんじゃない?」
 君といったら、こんなことを涼しい顔をして言っちゃうのだから。
「ひっどーい!」
「いや、ひどいのはお前だろ(笑)」
「あー、なんかさー、進藤ちゃんって、こーゆーときさ、なんか割と淡白ってゆーかさっぱりしてるってゆーか」
「こーゆーときってどーゆーときだよ」
「もっと情熱的な答えがほしかったよー。『そんなことになったら立松を殺して俺も死ぬ!』とかさー」
「ははははは」
「笑いごとかよー」
「だって…」
「まあ、いいんだけどネ」
「立松は情熱的だね」
「…そーね、あなたのことに関してはね」
「ははは」
「いや、ここは笑わないでよ」
 笑わないでって言ってんのに君は笑って。笑いながら、僕の膝に頭を乗せてきた。
「かんくろーさーん? どーしちゃったんですかー?」
 ひざまくら。するよりも、してほしい。です。うそ。どっちでもいい。甘えたり、甘えられたり、どっちも甘くて苦しいくらい。うれしい。死にそう。こんな盛り上がっちゃって浮かれちゃってんのは僕だけですか。君は目を閉じている。睫毛の一本一本まで夢のように美しい。ってまた勝手に気分は盛り上がるばかりだぜ。
「立松、俺のこと、ある日突然どうでもよくなったら、ためらわず、はっきりそう言って」
「もういいのよ、その話は。バカな冗談でした」
「冗談か本気かなんてそんなのどうでもいい。ただ、愛が無くなったのなら、もう愛は無いって、言ってほしい」
「…愛て」
「笑っていいよ」
「や、笑わないけども」
「キスして、立松」
 君が願わなくたって、僕はここでキスをしただろう。
「まあ別に言ってもらわなくても分かるけどな。愛されているのか、そうでないのか」
「わーお」
「もう俺に嘘は通用しないのでそのつもりで」
「…はい(笑)」
「よし」
「なんか自信満々ね、今日の進藤ちゃんは」
「自信なんか、ないよ」
 そうだ。自信じゃない。これは。情熱だ。ただひとえに。


 

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