溺れて、沈んで、水底で見るのは天国? 地獄? それは知らなければよかった世界? それとも知らずには死ねない世界?

2012年10月29日(月) 進藤ちゃん、恋に溺れるの巻き(八)
 なんか前回の更新から8年以上経っとるようですよ。ほんとに? うん、事実。年月の流れこわー。でも、なんか途中っぽかったので続きを書いてみようと思うよ(無茶)えーと前回の続きなので、これは二人が大学2年生の4月中旬頃の話です。2003年に二人が高3だったから、2005年の話なんだよな。大学生編書いてるときって、未来の話を書いてたんだなあ。そりゃそうなんだけど。今では、過去になっちゃったね。だって2012年だよ。もうしばらくしたら2013年になるよ。ヒー。前置き終わり。以下本題。
 それからすぐの日曜日、二人は電器屋に行きます。ドライヤーが壊れちゃったから新しいのを買いに。ついでに店内回る。電子ピアノを置いてるとこで進藤ちゃんが立ち止まり、人差し指で鍵盤を押しながら、
「ピアノとか弾ける人って尊敬するよ」
 と言ってたら、タテが、
「尊敬してして〜」
 なんて言いながら、猫ふんじゃったを弾く。
「お前、ピアノ弾けたの!?」
 衝撃を受ける進藤ちゃん。進藤ちゃんの食いつきっぷりにちょっとタテは驚いて、すぐに弾くのを止める。
「猫ふんじゃったですよ?」
「すごい…立松がピアノ弾けるなんて全然知らなかった…」
「猫ふんじゃったなら、進藤ちゃんだって、ちょっと練習したら弾けるよ」
「またまた…」
「いや、ほんとに」
「俺は弾けないよ。もっとなんか弾いて」
「いやほんとに、猫ふんじゃったしか弾けないから」
 ほんとはそれなりに弾けるんだけどね。なんか納得いかないふうの進藤ちゃんを誤魔化しつつ、さっさとドライヤーを買って二人は帰ります。
 帰宅後、夕飯を食べるんだけど、休日のご飯は、外食だったり、買って来て食べたり、バイトがあればバイト先で食べたり色々なんだけど、どっちかが作ったり、二人で一緒に作ったりもするよ。ちなみに、平日は、基本的にそれぞれで。朝は授業によって起きる時間が違ったりするし、昼は学校で食べるし、夜バイトが入ってるときはバイト先で。たまたま二人ともバイトが入ってなければ二人で食べるけど。この日は、タテが料理を作りましたよ。
 タテの作った八宝菜を食べながら、進藤ちゃんは、
「立松って何でもできるよな」
「えっ何それ」
「頭いいし」
「頭いいんじゃなくて、要領よく勉強してただけで」
「シンクロできるし」
「いや、できるっていうか、それは、進藤ちゃんもだし」
「ピアノ弾けるし」
「だから弾けないんだって」
「料理もうまいし」
「うまくはないよ。進藤ちゃんの料理だっておいしいよ。こないだのオムライス最高だったよ。ケチャップでタテノリって書いてくれたのが嬉しくて嬉しくて」
「写メ撮ってたな」
「待受にしてるしね」
「やめろよ。っていうか話を逸らすし」
「逸らしてないよ」
「だから立松が何でもできるって話」
「でーきーまーせーんー。まあちょっと器用貧乏気味ではあるかも」
「(聞いてない)何でもできる上にというか何でもできるからというか、何気にモテるし」
「何それモテないよ!? 声を大にしてモテないよ! 進藤ちゃんにしかモテてない」
「去年、同じ学校の子と付き合ってたよな?」
「うっ! それは…、それは申し訳ありませんでした。大変反省しております…」
「北海道の女の件もある」
「ええっ、ちょっと! その話を蒸し返します? いやしかし、それは進藤ちゃんに出会う前の
「それに、」
「それに?」
 そこで進藤ちゃんは、同じゼミの女の子のことを思い出す。よし、女の子の名前は野崎さんにしよう(今更)。
 野崎さんは多分、立松のことが好きだ…。仲を取り持って、みたいなお願いされたらどうすれば。どうすればって。取り持つわけがない。取り持つわけはないけど、なんて断れば。あー。もー。ていうかもう、野崎さんが立松に気があるって時点で既に嫌だ。嫌だといってもそんなの、野崎さんのせいでも立松のせいでもないし。でも嫌なものは嫌なんだから仕方ない。それにしても、野崎さんが立松を知ったのって、俺が一人で帰れないくらいに酔っちゃったせいだから、俺が原因なのか。あーいやだーーとかグルグルしてくる進藤ちゃん。それで、
「もういいや」
 ってなっちゃう。
『パシャッ』(携帯のシャッター音)
「あ、何撮ってんだよ」
「ふてくされてる進藤ちゃんもかわいくて」
「やめろって」
「写真集作りたいわー」
「お前、カメラの技術もあるってこと?」
「何言ってんの!? ないよ!」
 その夜、タテの部屋に進藤ちゃんが来て。タテは明日締め切りのレポートをやってた。
「あ、勉強してた?」
「いや、勉強でなくて課題。そして今終わったのです」
「ほんとに? 俺、邪魔じゃない?」
「いまだかつて進藤ちゃんがお邪魔虫だったことなんてあります? いや、ない」
 そっか、と言って進藤ちゃんはベッドに腰掛ける。そしたらタテもパソコン閉じて、進藤ちゃんの隣りに座る。
「あの、ちょっと言いにくいんだけど」
 と進藤ちゃんが言い始めたとき、タテは、夕飯のときの話の続きかな、と、ちょっと身構える。タテは、進藤ちゃんが何か引っ掛かってることがあるっていうのは分かるんだけど、何がどう引っ掛かってるのかは分からない。なんとか進藤ちゃんの気持ちを理解して、自分にできることがあるなら何でもしたいと思ってるんだけど、無理に聞き出すのも気が引けるし、どうしよっかなあと考えてる。
「うん、何?」
 進藤ちゃんはしばらく黙っていて、何か言おうと口を開くんだけど、それでも少し間を置いてから、
「そういう気分なんだけど、いい?」
 って。タテはちょっとびっくりする。進藤ちゃんからこんなこと言うなんてーていう嬉しい驚きではなく、タテは、進藤ちゃんがほんとは全然別のことを言おうとしていて、でもそれを飲み込んで違うことを言ったって察知したんだけど、進藤ちゃんならもっと下手な取り繕い方をすると思ってたら、自然に色っぽい流れに持っていこうとするんだもん。
「どういう気分なわけよ」
「そういう気分はそういう気分だよ」
 それで進藤ちゃんたらタテをベッドに押し倒しちゃうんだから。
「あらーなんてうれしいシチュエーション。でも、いいの? 進藤ちゃん、何か俺に言いたいことがあるんじゃない?」
「言いたいこと? ないよ」
 進藤ちゃんはタテの額に口付ける。鼻先にも頬にも顎にも。
「物言いたげな目をしていらっしゃる」
 タテは進藤ちゃんの頬を両手で包み、目頭に、目尻に、舌を這わせて、耳朶を、ちゅ、と吸う。
「俺は、今のところ、お前に言いたいことはないよ」
 お返しみたいに、進藤ちゃんがタテの耳朶に甘く噛み付いたら、タテは全然痛くないのに、痛い、って耳元で囁く。
「俺は言いたいんじゃない。聞きたい。聞かせてほしい」
「何を?」
「立松が、俺の、どこを、どんなふうに、どのくらい好きなのか」
「わーお」
「できる? 何でもできる立松」
「俺は何にもできないけど、それは超得意分野だね。一晩中かけて、じっくり聞かせてあげる。一晩じゃ足りないけどね!」
「そんなこと言って、ほんとはレポート終わってないんじゃない?」
「終わってますよ。それに、たとえ終わってなかったとしても、この状況で、
「えっ、ほんとに終わってないの?」
「終わってるよ!」
 というわけで、長い時間をかけて念入りに愛し合えばいいと思います。ってメモって便利だね。SSだったらこんな書き方許されないよ。まあ私はやるけど。それはそれとして、進藤ちゃんてば自分から誘ったくせに、なんとなく上の空なんだよ、最中。当然タテはそれに気付くんだけど、何も言わない。どうしちゃったんだろなーと思いつつも、俺ほんとに何にもできないな、なんて暗い気分になったりね。
 事の後、裸のまま抱き合ってるとき、進藤ちゃんはタテの手を掴んで、自分の顔の前まで引き寄せて、じっと見つめる。
「この手が、ピアノも弾けたなんて」
「猫ふんじゃっただけどね?」
「でも、弾いた。俺はちゃんと聞いたよ」
「そりゃどうも」

(進藤ちゃん、今度、俺の実家においで。うちには母さんのピアノがあるんだ。俺は小さい頃、母さんにピアノを教えてもらって。別に上手じゃないけど、俺のピアノを聴いてくれる?)

 タテは、そう言えたらいいな、と思うんだけど言えなくて。

「今度さー、高原さんにピアノ聴かせてもらいに行こっか」
 って言うんだ。
「…うん」
 それはいい提案だとは思うけど、進藤ちゃんはタテのピアノが聴きたいんだよ。
 進藤ちゃんは、タテの手を、なかなか離すことができなかった。

 あとちょっと続く予定なんだけど、まだ考えがまとまらないの。そのうち更新します。そのうちって何年後?(素)

2012年11月2日(金) 進藤ちゃん、恋に溺れるの巻き(終)
 前回の続き。 翌日の月曜。夜、野崎さんは一人で、タテがバイトしてるもりもりラーメンに行く。タテが注文をとりに来て、あーどうもどうもみたいな形ばかりの挨拶を互いに交わすんだけど、その後いきなり野崎さんが、
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、立松君は彼女とかいらっしゃるんでしょうか?」
「はい。わたくしには付き合ってる人がおりますよ」
「そうですよね。もしいなければ、お友達からお願いしようかなどと思ってたんですが」
「そっか、ごめんね?」
「はい。…うん」
「そしてご注文を伺ってもよろしいのでしょうか」
「あ、はい、じゃあ特製もりもりラーメン大盛と餃子と炒飯とレバニラ炒めをお願いします」
 というようなやり取りがあったんだ。タテはちょっと悩むよ。これって、進藤ちゃんに報告すべき事柄? ってな。
 タテがバイト終わって帰宅すると、進藤ちゃんは入浴中だった。バイトがあるときは進藤ちゃんのほうが帰りが早いのが普通。風呂場の進藤ちゃんは、玄関のドアが開く音とタテの「ただいまー」が聞こえて、「おかえりー!」とシャワーの音に負けない大きな声で返す。
 進藤ちゃんが風呂から出てきたら、タテが「髪乾かしてあげる〜」と、昨日買ったばかりのドライヤーを持って近寄ってくる。
「別にいいよ。立松も早く風呂入っちゃえば?」
「進藤ちゃんの髪乾かしてからね」
「えー。いいのに」
「いいからいいから」
「じゃあお願いします」
 それで、ゴーッて乾かすんだ。ゴーッの音が前のドライヤーよりずっと静かだね、と言い合ったり。
「進藤ちゃん」
「んー?」
 言おうかなって、タテは思った。バイト先での出来事を。でも、進藤ちゃんの、んー? が、あまりに自然で無防備で、やっぱ言えそうにないなって。それを言えば、なんだか最近ナイーブになってる進藤ちゃんはどう思って、なんと反応するか。今のこの穏やかな雰囲気は確実に壊れてしまう。だから言えない。今言わなくたって、そのうち、いや明日にでも、彼女本人から進藤ちゃんに伝わってしまうかもしれない。そうなったら、なんで言ってくれなかったんだよって、問題になるかも。今言わないことで守れるのは、このひとときだけ。でもタテは、今この瞬間の平穏を選ぶんだ。
 ドライヤーを切って、タテは進藤ちゃんを後ろから抱き締める。髪の毛に顔をうずめて、
「いい匂いがするーー」
「同じシャンプーだけど」
「でも進藤ちゃんていい匂いがするんだよ。ずっと前からだけど。高三の夏からずっといい匂いがしてんの。生まれたときからなのかなー」
「立松もいい匂いするよ」
「ほんとに?」(進藤ちゃんを放して、自分の腕をくんくんする)
「うん、ほんと。そうなっちゃうもんなんじゃない? 好きになると、その人の匂いも好きになるんじゃない?」
「それもあるけど、進藤ちゃんは誰が嗅いでも明らかにいい匂いがするんだよ。学校のお友達とかに聞いてみ?」
「立松以外に俺の匂いをまじまじと嗅ぐ人なんていませんー」
 進藤ちゃんは、タテの口調がちょっとだけ移っちゃうときもあるんですー。

 で、翌日、タテの予想どおり、進藤ちゃんは野崎さんから昨日の出来事を聞くことになる。学食で昼食を終えて、進藤ちゃんとその友人達が出て行こうとしてたら、野崎さん含む女子グループに出会う。お互い、あっ、てなって。じゃあ、と軽く会釈して通り過ぎようとする進藤ちゃんを、ちょっと待って、と野崎さんが呼び止める。
「進藤君、ちょっとだけ時間いい?」
 午後一の講義が入っているが、まだ昼休みは20分ほどある。お互い、友人達に先に行っといてと伝えて、二人は隅のほうのテーブルへ。友人達が、にやにやしてた。そんなんじゃないのに…と思う進藤ちゃん。
「私、昨日、もりもりラーメンに行ったの」
「うん」
 えっ! って言いそうになったところを、なんとか平静を装って返答したものの、反応薄すぎて返って変かな? とか進藤ちゃんが気にしてる間にも野崎さんの話は進む。
「それで、友達になってもらえないかと伝えてみたんだけど、進藤君が言ってたとおり立松君には彼女がいるそうで、ごめんって言われたの。以上、報告終わり」
「そうなんだ…」
 すごい行動力だね勇気あるねでも残念だったね、とか、どう反応するのが普通なんだろう。でも何を言っても白々しいし、今自分がどんな気持ちになってるのかも掴めなくて、何も言えない。
「そうなの。それだけ。私ね、まだ誰とも付き合ったことないんだ」
 野崎さんは一般的に見てかわいいし、友達も多そうなので、進藤ちゃんはちょっと意外に感じる。
「私がいいなって思う人って、彼女がいるんだなあ。それで、私は、誰とも付き合ったことがないから、付き合うってどういう感じなのか分からない。愛し愛されるって、どんな感じなの? こないだそういう話になったときは、進藤君酔ってたからね。素面のときならどう答えるかな?」
「どんな感じって…」
 進藤ちゃんはじっと考える。眉間に皺寄せて、じーっと考える。野崎さんは、吹き出しちゃう。
「ごめんごめん、変なこと聞いちゃって。私、ごはんまだなの。お腹空いちゃって。もう行くね。聞いてくれてありがとう」
 立ち上がる野崎さん。進藤ちゃんも慌てて立ち上がり、
「野崎さん、俺にも、愛し愛されるって、どういうことなのか、分からない。相手の考えてることも、分からないことが多い。でも、酔ってても、酔ってなくても、これは同じだ。俺は溺れてて、常に相手のことを考えてて、それが苦しくて、でもたぶん幸せでもある」
 野崎さんは、進藤ちゃんの真剣な様子に驚いて、その真摯さにちょっと胸を打たれて。
「いつか上手に泳げるようになるときがくるのかな? それとも、そうなるくらいなら、溺れ死ぬほうが本望なのかな?」
 野崎さんは進藤ちゃんの返答を待たず、
「ありがとう、進藤君。ためになったよ」
 去っていく野崎さんの後ろ姿を見ながら、
(立松、昨夜、何も言わなかったな。俺の髪を乾かしながら、抱き締めながら、匂いながら、何を思っていたのかな。言おうとしたんだろうか。でも、言わなかった。立松から聞いてたら、俺は何て反応したんだろう。俺は、言ってほしかった? それとも別に言わなくてもいいって思ってる? 自分のことなのに、分からないなんて)

 その夜、進藤ちゃんはバイト先で、店長に奥さんとの馴れ初めとかを聞くんだ。店長は23歳のときに結婚して、二人子どもがいる。
「奥さんとはどこで知り合ったんですか?」
「高校の同級生。俺は高校出てすぐ働いたんだけど、嫁は大学行って、多分学校で好きな男でもできて別れることになるんじゃないかって思ってたんだけど、そうはならずに細長く続いたな。それで、大学出た嫁は就職すんだけど、一年でもう仕事辞めたいってなっちゃって、結婚するよう迫られたので、まあいっかと思って結婚したっていう」
「へーー」
「こんな話面白い? 夢とかないし」
「いえ、興味深いお話です。結婚して20年も経ってるってことですよね」
「そうそう20年。進藤君て今年で二十歳だよね。怖いななんか」
「結婚生活を長続きさせる秘訣とかあります?」
「それは、諦めだ。悪い運命だと思って諦めることだな」
「運命じゃなくて、悪い運命…?」
「悪い運命と思って諦めるしかないようなことも起こるんだよ、たまに。でも悪い運命は言い過ぎた。ただの運命に替えるわ。ってこの話、ほんと夢とかないけど大丈夫? 一応フォローしとくけど、俺は嫁を愛してるよ、多分」
「多分…?」
「多分。どちらかといえば」
 暇そうだな、この店(素)
 バイトが終わった進藤ちゃんは、もりもりラーメンまでタテを迎えに行く。何分か待ったところでタテが出てきて、
「おーっと、なになに進藤ちゃん、びっくりしたー!」
「ちょっと散歩がてら迎えに来てみた」
「えー、うれしいーー」
 二人は自転車で、ちょっと回り道して帰る。桜並木を見たりして。桜はもう半分以上散ってしまっている。
「桜の季節も終わったねー」
「俺は葉桜も好きだよ」
「俺もー」
「俺は立松が好きだよ」
「えっ(笑)ちょっと何それー、俺だって当然好きだよあなたのことが!」
「俺以外の誰かが立松を好きなのが嫌だよ。好きっていうのは恋愛対象としてって意味だけど」

(立松、昨日のこと、今なら言うかな?)
(進藤ちゃん、昨日のこと、あの子から聞いたんだろうな)

「俺も嫌だね。でも、進藤ちゃんみたいな人、みんな好きになっちゃう。それは仕方ないんじゃないかと思うよ」
「誰かが誰かを好きになるのは仕方ない。でも、嫌なものは嫌なんだよ」

(立松、言わないなあ)
(進藤ちゃん、言わせたいのかな?)

「進藤ちゃん、怒ってる?」
「なんで? 怒ってないよ。怒る理由とかある?」
「あるかも?」
「何?」
「秘密!」
「ふーん、別にいいけど。でも、ほんとに、怒ってないよ。悲しいとか、寂しいとかでもないし。ただ、好きだなと思って。結局、色々考えても、最後に残るのはそれだけなんだな、と。ほんとうに、それだけ」
 タテはしばらく黙って、その後、ふと真面目な調子になって、
「進藤にとって俺って、謎めいてるように見えることもあるかもしれないけど、俺にとっても、進藤は謎めいてる。何考えてんのかいまいち分かんないときあるし。今も、正直、分かるようで分からない。解き明かしたいようでもあるし、謎のままでそっとしておきたい気もするし」

 風がひゅう、と吹いて、また桜を散らす。

「人を好きになるって、不思議だね。うれしくて、苦しくて、相手の全てを知りたくて、でも、自分に都合のいいことだけ知っておきたい気もするし。自分の全てを知ってもらいたくて、でも、とても、そんなの、怖すぎるって、そんな感じ。でもそういうのって、幸せでしょ? ちがう?」
「ちがわない」
 多分ね。愛し愛されるって、幸せで、でも不幸せ、それはいい運命? 悪い運命?


 その世界を知ってしまえばもう元には引き返せない、ならいいのに、君たちはふとしたきっかけでこっちに戻ってきてしまえるから、だから、
 溺れたふりでもいいから、



 

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